「絶対許さないんだから!!」
何が何でも奪い返してやる!
Don’t Select The Way!
バーフォンハイムでモブの依頼を受け、今はモブの出現場所であるナム・エンサに来ていた。
だが、ターゲットがなかなか出てこず、時間だけが過ぎていき、
この日は野宿することを余儀なくされてしまった。
「みんな、こっち来て!!」
簡易テントを組み立て野宿の準備をしていると、周囲の散策をしていたが突如叫んだ。
「どうした?」
「覗いてみて。」
そう言っては持っていたスコープをバルフレアに手渡す。
「ほぅ……コイツは……」
「なんだなんだ?」
「ターゲットよ。――覗いてみればわかるわ。」
すぐ近くで双眼鏡を覗いていたフランが、視線だけこちらに向けてそう言った。
頭に疑問符を浮かべながらスコープを覗いて、ヴァンは、わっ、と驚きの声をあげた。
「距離は………目算でも一キロ弱…もしくは以内、かな。」
「倒しに行くのか?」
「そうね……幸いにも相手には気づかれてないし。
後ろから不意打ちでも仕掛ければ日が暮れる頃には倒せるんじゃないかしら?」
再びスコープを覗きながらは答える。
「ま、そうすりゃ明日にでも戻れるだろうな。
それに、今見逃してしまえば相手の居場所がわからなくなる。」
「それじゃあ………」
「決まりだ。――行くぞ。」
バルフレアの一言に頷き、6人は武器を取った。
「用意は良い?」
の言葉に皆が頷く。
「じゃ、いくよ。
1……2……3……それっ!」
のかけ声に合わせて、ヴァン、アーシェ、バッシュ、パンネロが敵の四方を取り囲む。
同時に、バルフレア、フランが立ち上がって銃や弓矢を構える。
「はぁっ!」
敵が驚くと同時に全員で攻撃をしかけ、その場にいた誰もが仕留めた、と思った直後。
「………あっ?!」
7人の攻撃をかいくぐり、敵は岩場の方へと逃げ出した。
「待てっ!!」
いち早くそれに気づいたがすかさず後を追い、その後ヴァン達も追う。
「待てこのっ……!」
岩を踏み台にし、銃のバレルを握っては敵に殴りかかった。
ばごっ、と固い音が響く。
敵の肩にグリップが直撃した。
「――っ!」
ビリビリと手に痺れが伝わってくる。
その痺れにが顔をしかめたその直後、
「っ……!」
乾いた音とともに、身体が宙を舞う感覚。
がダガーを出すより速く、相手の反撃をもろに食らってしまった。
痛みで身体が動かない。
受け身の用意もできず、はただ自分が落下していく感覚だけを感じていた。
そして、大きな岩が視界を占領し、身体がぶつかろうとした刹那――
「――!」
名を呼ばれ、暖かい腕に抱きとめられた。
「バル……フレア……」
「大丈夫か?」
「ん…、なんとか……「見て!」
の言葉を遮るように、パンネロが叫んだ。
指されるままに前方を見てみれば、モブが岩場の方へ逃げていくのが見えた。
「待てっ――「追うな!」
その後を追おうとしたヴァンをバッシュの鋭い声が止める。
「直に日が暮れる。今ヤツを追うのは危険だ。
ひとまず戻ってヤツを討つ対策を立てよう。」
「さてと、どうしようかねぇ………」
焚火を囲みながらが呟く。
幸いにも怪我は大したことはなく、は明日に備えて銃を磨いていた。
「四方を囲んでも逃げられたんじゃあな………」
「図体デカイくせに無駄に足速いからな。」
余計ムカつくんだよ、とヴァンは飯をかっこんだ。
すると、パンネロがを見て首を傾げた。
「どうしたの?」
「ねぇ、ってたしか腕にブレスレット付けてなかった?
クリスタルと銀でできた、綺麗なヤツ。」
「?ん、そうだけど――」
パンネロの質問に首を傾げながら自分の腕を見て、
「あぁーーーー!!!」
突然、は大声で叫んだ。
「どうしたんだ、。」
「な……ない………」
立つ上がり、は辺りを探し始める。
「何がないんだ?」
「ブレスレットがないのよ。
大切なブレスレットが………
母さんの形見が………」
「それって、さっきの話の……?」
コクリと頷き、はへなへなとその場に崩れ落ちた。
「母さん………」
ガクリと項垂れる。
すると、フランが静かな口調で話しかけた。
「さっきあのモブが逃げていくとき――
右の腕に光るモノが引っかかっているのが見えたわ。」
「えっ……?」
「それってもしかして………」
絶対にとは限らない、と付け足し、フランは口を閉じた。
「……?」
フランの話を聞き、黙りこくるにアーシェはおそるおそる声をかけ、
「きっと、大丈夫よ。必ず戻ってくるわ。」
気遣いの言葉を続ける。
すると、はすっと立ち上がって長く息を吐き出した。
「・・・あんのヤローーー!!!」
また突然叫びだしたに皆驚く。
「私の宝物をよくも………
何が何でも奪い返す!絶対許さないんだから!!
この手で血祭りに上げてやる!!」
完全に頭に来ているを止めることは、もはや誰にも不可能だった。
それこそ、今逆らったら言葉通り血祭りに上げられかねない。
もとより戦闘に長けたは、空賊という稼業の所為かプライドが高く、
どんなことでも負けたところを見たことはないし、負ける所など想像もつかない。
だからこそ、今回のようなことはが、――のプライドが、許さないのだろう。
たかがモブの一匹、の手に掛かればあっという間に倒されるだろうが、
大切な宝物をとられた……というのも何だが、大切なモノが手から放れたショックと、
プライドを傷つけられた怒りがを心底本気にしていて、
今回のモブ退治はに任せ、バックアップに回ろう。
ということだけが、その場ですぐに決まった。
その日の夜――皆が寝静まった頃、バルフレアはふと目を覚ました。
起きあがると、隣にいるはずのの姿がないことに気づく。
「………?」
辺りを見回すと、テントの端に影が映っていた。
「……――、」
名を呼んでも反応はない。
何やら作業に集中しているらしく、の表情は真剣だった。
はぁ、とため息をついてバルフレアはの隣に座り込む。
「――バルフレア、」
「何やってんだ?」
見てみると、は小鍋で青緑色のどろりとした液体をかき混ぜていた。
傍らには茶色い紙袋と、鍋の中と同じ液体の入ったボトルが置いてある。
「液火を煮詰めてるの。」
言いながら、は淡々と作業を進めていく。
液火がどろりとしてくると火から外し、更に火薬を継ぎ足してまた火にかける。
「銃を使ってるならわかると思うけど………
液火ってこうやって煮詰めると濃度が上がるでしょ?
火薬の量を多くしてもそうだけど、こうして濃度を上げることで爆発力が高まり、弾丸の初速が上がるの。」
「それはわかるが……何のためにだ?
わざわざそんなことまでしなくても、あの程度のヤツなら楽に倒せるだろ。」
「母さんの形見を奪い返す為よ。
それだけじゃないわ。
私のプライドに傷を付けたアイツは絶対に許さない。
完膚無きまでに叩きのめしてやるんだから!」
強く言いきって、は手元に置いてある紙袋をとる。
中身は銃弾だった。
だが、普段バルフレアやが使っている弾より大きく、軽く見積もっても倍はありそうだった。
「随分とデカイ弾だな。」
「まぁね。」
とりだした弾を膝に乗せ、一回りほど大きい器に水を張り、鍋底を冷やす。
真剣な表情で作業を進めるに、バルフレアはやれやれ、と息をついてテントに戻った。
「これ使うのも久し振りだし……どうせなら派手にやってやろうじゃないの……――っくしゅん、」
作業を進めることに夢中で、すっかり身体が冷え切っていたことに気がつかなかった。
「けっこう冷えてきたな………「ほらよ」
一言添えられて、肩に何かがかけられる。
焦茶色をしたそれは、のマントだった。
「バルフレア……」
「砂漠の夜は冷えるからな。
風邪なんざ引かれたら困んだよ。」
「ごめんなさい。……ありがとう。」
「どういたしまして」
ふっと唇の端に笑みを浮かべ、気取った口調でそう言えば、が擽ったそうに微笑った。
「―――これで良し。
手伝ってくれてありがとう、バルフレア。」
「あぁ」
「あとさ……ついでに、我侭言って良いかな?」
「何だ?」
「その……ちょっと、こっち来て。」
の隣へ寄ると、耳元で恥ずかしそうに囁かれた。
『今夜だけ、傍にいて』と
「それなら―――これで良いか?」
細い腕を引いてやると、が倒れ込んできた。
顔を覗き込むと、柄にもなくは真っ赤になっていて、
腰に腕を回せば、その身体が小さく震えた。
その様子にくくっと笑みを漏らせば、腕の中でがバカ、と呟いた。
「傍にいてやるついでだ。何なら、もっと良いコトしてやろうか?」
「っ……いい!////」
首まで真っ赤になったはまるで小動物のように身体を丸めて寄添ってくる。
恥ずかしい顔は見られたくないけれど、傍にはいて欲しい。
そう心の中で思っているのが、手に取るようにわかった。
幼子をあやすように、ゆっくりと髪を撫でてやる
「……、」
呟き、そっとその髪に唇を落とす。
そのまま額、瞼、頬にと降りていき、
最後に軽く唇に触れる
「…んん……」
とろんとした眠たげな瞳、声。
はすっかり眠っていた。
「……これ以上は、野暮だな。」
ぽつりと呟き、しっかりとを抱きしめる。
夜の風が、熱を帯びた身体に心地よかった。
----------------------------------------------------------------
あとがき
1000ヒット記念にもうひとつ。バルフレア夢です。
前後編ということで、まずは前編。
タイトルは直訳すると「手段を選ぶな!」
ブレスレットのイメージは右上の写真です。
ちなみに、「液体火薬〜〜」のくだりは私の愛読書「キ○の旅」より。
後編は後日アップします。
2006 12 1 水無月