カーテン越しの陽射しにふ、と目が覚める。
時計を見ると、いつもより10分ほど早い時間だった。



暑くなってきたので、半袖のブラウスを出して手を通す。
櫛を持って鏡の前に立つと、いつもと少し違う自分がいた。



――昨日、思い切って髪を切ってみた。
いろいろ思うところはあったけど、ちょっと変わった自分を見てみたかった。
「アイツ……気づくのかな」
新しい髪形に整えながら、ふと思い浮かぶのは友達じゃなくて、『アイツ』の顔
「……よし」
せっかくだから、滅多にはかないスカートをはいてみた。ついでにヘアアクセも変えてみた。



……もし、「可愛い」とか言われたらどうしよう
想像しただけで顔が熱くなってきた。

すっと言えない。――きっと言えない、「好き」の言葉
何だか、今日は目も合わせられないかもしれない







授業が終わって帰ろうとすると、窓の外は土砂降りの雨だった。
「20パーセントじゃなかったのー……?」
一応折り畳みの傘は持っている。
でも、せっかくいつもと少し違う自分になれたのにな……
淡い期待を溜め息でこぼす。


その直後、
「溜め息ついたって雨はやまないぜ?」
飄々とした声が隣から聞こえた。
「さ、すけ……!」
驚きすぎて、声が裏返りかけた。
「よ、。降ってきちまったな」
「あー……うん。今朝20パーセントって言ってたのにね」
「だよなー。俺様としたことが油断したぜ」
「……傘忘れたの?」
「そーゆーこと。
自転車は真田の旦那が持ってっちゃったし、どうしようかと思案してるワケ」
この土砂降りでは、駅まで走っていくのは無理がある。
「……一緒に、帰る?」
ふと、そんな言葉が口をついた。
「あ、その……佐助がよければ」
慌てて取り繕うと、佐助は唇の端を少し持ち上げて、
「ま、がそう言うんならしょうがないな。
ほら、貸して」
の傘を取り、二人の真ん中で開いた。
「行くか」




女の子用の折り畳み傘は少し小さくて、佐助の右肩はすっかり濡れてしまっている。
「あーあ……旦那、事故ったりしてないといいけど……」
他愛もない会話を繰り返す。佐助の表情はちょっと憂鬱気味だ。
「俺明日から天気予報別ので見るかなー。この裏切りはあんまりだって」
この展開があんまりだって。内心自分にツッコミを入れる。
まさか、こんなことになるなんて考えていなかった。
距離が近すぎて、心臓が爆発しそうだ。



触れるほど近くて、手を伸ばせば届く距離なのに
上手く伝えられない想いが自分の中でひたすら空回りを続けている。
誰か、時間を停めて欲しい。このままだとどうにかなってしまいそうだ。
でも、この時間が嬉しくて、もっと続けばいいのにと思う。




「……あ、」
ふと顔を上げると、レンガ調の駅の外観が見えてきた。
もうすぐ着いてしまう。明日から連休だから、しばらくは会えない。
近くて、遠い二人の距離。
この想いが届けばいいのに……


「――危ない!」
声に、ばしゃ、と音がかぶさった。
何事かと顔を上げると、呆れたような佐助の顔がすぐ傍にあった。
「ったく。ぼーっと歩いてたら危ないだろ」
遠くに車の走る音が聞こえる。佐助の右足は水をかぶっていた。
「あっ……ごめん!大丈夫?」
戸惑っていると、不意に佐助の手が伸びてきた。
「気にすんなって。ほら、行かないと電車逃すぞ」


触れる指先が、不謹慎だけど嬉しい。



「もっと一緒にいたい」なんて言えないけれど、これだけはきっと伝えよう



好きです




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 あとがき
ボカロの歌詞でなんか書いてみたくなったのでふらっと書いてみました。
佐助書くの楽しいです。

  2011 7 18  水無月