真夜中の部屋で光るケータイ
                      ガラスに映る滑らかな白い肌
                     それを彩る小さな宝石
                      宝石、動物、イニシャルロゴ
                     幾つものストラップが触れあい、かちゃかちゃと乾いた音が鳴る
                      受信の準備はバッチリ





                      十二時まで後十分
                      待ちどおしくて仕方ない



                     「そろそろ電源入れとこ………」

                     手に取ったとき、一番最初に目に付くソレ
                     ちっちゃな王冠のストラップ



                      王子サマとお姫サマ
                     初めてペアで買ったモノ
                     一番最初のストラップ
                     所々薄くメッキがはげていて、
                     彼と付き合うようになってからの年月を思い出す





                      画面を開けば、待ち受けのプリクラが表示される
                     先週とったばかりのモノ
                     面倒だ、とか言いながらも付き合ってくれた
 
 
                      メモリの中にはたくさんの写真
                     友達、家族、そして彼
                     一枚ずつ眺めていく




                     「――!」
                     静かな空間に突如流れるポップスのメロディー
                     すっかり聞き馴染んだそれに、慌てて画面を切り替える



                     相手はただ一人
                     わかっていても、ついつい確認してしまう
 
                     サブ画面に表示される、無機質な文字







                            『トシ』





                     開いてみると、たった二行程度の短い文
                     思わず笑みを零しながら、じっくりと眺める


                     『よう。ちゃんと起きてるか?
                     一日ご苦労だったな。今日も頼むぞ。』
                     いつもと何ら変わりない文章
                     「………ん?」
                     だけど、今日は少し違った。
                     『――――それと、』
                     「それと……?」
                     文末に、見慣れない言葉
                     ゆっくりスクロールしていくと、そこには機械的な文が一つ
 
                     『このメールにはファイルが添付されています』
                     いつもと違う内容に戸惑う
                     「トシったら一体何を……?」
                     取り敢えず、と思いファイルを開く




                      それは、音声のファイルだった
                     予想外の中身に何処か安堵感を憶えながら、
                     そっとケータイを耳に当てる
                     ピ――……と無機質な音がして、音が再生される
 
 
 
                     『よう。まず言っておくが、こんな手間かけてやんのは今日ぐらいだからな。』
                     突然の前置きに思わず笑みがこぼれる。
                     『あー……その、なんだ俺の記憶が間違ってなきゃ……
                     今日は……結婚記念日、だったよな?
                     去年までまともに祝ってなかったからな……』
                     「トシ……」
                     思いがけない言葉に、胸が熱くなる。
                     『――ックソ、こんなの俺のガラじゃねぇってのによ………
                     ――とにかく、後ろ向け。すぐにだ。』
                     「後ろ…?」
                     半ばヤケっぽいメッセージに驚きと笑いを交えつつ、言われたとおりに後ろを向く。
                     「……?一体何が……『』」
                     「?!」
                     名前を呼ばれ、半ボケだった感覚が弾かれたように働き出す。
                     「トシ!?何処??!」
                     「ここだ」
                     背後からふわりと抱きしめられ、視界の端に黒い髪が映る。
                     「っ……トシ?」
                     「ああ。
                     ――さっきの様子だと、ちゃんと聞いてたようだな。」
                     「いつ、の間に……?」
                     「お前がメール読みながら笑っていた頃だな。」
                     「……気づかなかった……」
                     「気づかれないように入ったつもりだがな。」
                     「それって、何だかテロリストみたいよ。」
                     「馬鹿野郎。俺は新選組副長だ。
                     それとも何だ。誰かの悪戯に見えるのか?」
                     「……ううん。ちゃんとわかってるよ。トシだって。」
                     腕の温もりが、声が、しっかりと伝わってくる。
                     「疑ったりなんて、しないよ。」
                     「あたりめーだ。」
                     くるりと身体が反転する。
                     トシと向かい合わせになって、すぐ目の前に顔がある。
                     「っ……トシ、どうしたの?こんな時間に。」
                     「決まってんだろ。――会いに来たんだよ。」  
                     「私に?」
                     「他に誰がいる。」
                     「それはそうだけど……なんで?」
                     「言っただろーが……今日ぐらいだってよ………」
                     腕を弾かれ、抱き寄せられる。
                     ドクン、と心臓が強く鳴る
                     時間が、ゆっくりに見える。
 


                      「……愛してる。」
                      頬が熱い、
                      胸が苦しい、
                      気持ちが、止まらない




                     「それと、……「待って」
                     自然と言葉が飛び出る
                     「……もう一回、聞かせて
                     ――瞳を見て、ちゃんと聞かせて。」

                     トシがはっきり頷くのを確認して、胸に埋めていた顔をゆっくりと上げる。
                     「………愛してる。ずっと、一緒だ。」
                     「……うん、私も。
                     ……トシ、愛してる。」






                     「……」
                     再び抱き寄せられ、不意に重なる唇。
                     「去年も、一昨年も、一人にして悪かったな。」
                     「いいよ。トシが悪いんじゃないんだし。」
                     「……あぁ、そうだな。」
                     「それに……会えなくても、メールがあるし……」
                     「……は強ぇな……」
                     「え……?」
                     「ここんとこずっとメールだけだったからな。
                     ……俺の方が限界きちまってよ。」
                     「トシ……」
                     「無性にに会いたくなっちまってな。」
                     照れくさそうな一言一言が嬉しい。
                     「………私も」
                     抑えていた感情が、溢れ出す。
                     「私も会いたかった……
                     会いたくて……トシの声が聞きたくて……
                     どうしようもないくらい、会いたかったの……」
                     「………」
                     無言で抱きしめてるトシの腕が優しくて、
                     思わず涙がこぼれる。
                     「大丈夫だ。ずっと傍にいる。
                     ……約束しただろ?」
                     「……うん」
                     「何があっても、離さねぇから。」
                     「うん」
                     「……愛してる。」
                     「……私も。」








                     言葉一つで、こんなにも揺れる
                     まるで自分じゃないみたいに



                      恋の病気が、私を蝕む
                      それは、不治の病 









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            あとがき
             1000ヒット記念其の壱。土方さんバージョンです。
             ラストなんかい同じ会話を繰り返すんだ、というのは敢えて突っ込まないように。
             結婚記念日………夫婦という設定でかいてみました。
             多分3,4周年くらい。
             お気に召しましたら、ドウゾお持ち帰り下さい。
             2006 12 1 水無月