12月25日。夜7時過ぎ
「何でさー、せっかくのクリスマスにさー、ライルと二人で鍋つつかなきゃいけないのよー」
コタツに潜り、顎だけ机の上に乗せながらはぼやく
「仕方ねえだろ。そういう仕事なんだから」
ライルは向かいに腰を下ろし、の話を適度にスルーしながら鍋に具材を投入する
「でもさー、何でわざわざ泊り込みなのよ?!」
うがー!と怒りを爆発させたの手の中で、哀れかな専用箸(二代目)はばきりと音を立ててへし折れた
事は三日前に遡る
「補習?」
「ああ。模試まで時間もないしな。やばい奴らにそろそろ喝入れてやんねえと」
「それは別に良いんだけど、何かあったの?」
「あー……」
ニールはどこかばつの悪そうな表情で頬を掻くと、重たい口を開いた
「日がな、上手く取れなかったんだ。」
「どういうこと?」
「年末だから生徒も学校も色々とあってな。補習に使えるのが24と25だけなんだ」
「24と25……」
今は12月。ようはクリスマスとイブだ
「えっ?じゃあ……」
「悪い、。クリスマスは一緒にいられねえ」
「そりゃあ……仕事なら……
でも、補習ならすぐに帰ってこれるんでしょ?」
「それが……ちょっと事情があってな、泊り込みになるんだ」
「はぁ?!」
思わずがたんと椅子を蹴飛ばし立ち上がってしまった
「この辺も物騒だし、俺も補習の内容考えたりするのに時間さけるからって事で他の先生方と話があってな
だから……24は帰ってこれないんだ。25はいつ帰れるかわからない」
「そんなのって……マジ?」
「マジだ。っていうか、本当にその日しか取れなかった。……すまん、」
「その……ニールのそういう生徒思いなところ好きなんだけど、
でもクリスマスに補習なんて……」
はぁ、と今度はため息が零れる
結局なんの打開策も出ないまま、こうしてクリスマスを迎えてしまった
「そりゃ、私だってイブは演奏会だったし、帰りも飲んできたけど……
でも、ちゃんと帰ってきたんだよ!なのに〜……」
ニールのばかー!とグラスのビールを飲み干し、机に突っ伏す
とニール、ライル兄弟は幼なじみであり、家も隣同士
小中高と同じ学校に通い、大学からはそれぞれの進路を選んだ
は音大を出てバイオリニストに
ニールは高校の数学教師に
ライルはジャーナリストになる道を選んだ
高校を卒業するときにニールとは恋人関係になったが、3人の関係は変わらない
ご飯は一緒に食べるし、3人で家族旅行にも行く
大学に入ったときから今まで、そのスタンスが崩れることはなかった
「そうだな、兄さんも悪いな」
ライルは適当に言葉を返しながらの椀を取って鍋の具をよそってやる
「兄さん『も』じゃなくて兄さん『が』!」
「あー、そうだな」
どちらかがヘマをやらかしたときもう片方がフォローするのは昔からのことだ
しかし、ここ数年のクリスマスは晩ご飯の後は二人の邪魔をしないよう片付けに徹してやるのがライルの仕事だったのだが、今年はそうもいかない。
このままだとは確実に泥酔。そして二日酔い決定だ。
そんなことをしたらニールに何を言われるかわからないし、回復したにも恨まれる
「ほら、豆腐食えるぞー。白菜はいるか?」
「んー……」
はむっくりと顔を上げ、
「……食べる」
のろのろと、ライルがさりげなく用意した割り箸に手を伸ばした
とりあえず明日か明後日にでもの新しい箸を買ってやらねばと考えながら、ライルはの注文通りに具をよそっていく。
高校時代の同級生に言わせれば、どうしてそんな役回りを引き受けてるのか。ライルなら良い女性に出会えるはずだ。ということらしい
けど、何だかんだ言ってライルはニールとが好きなのだ
ニールは生まれたときから一緒に過ごしてきたし、は大事な幼なじみで、好きな人でもある
だからこの二人のためなら多少の損は良いかと思ってしまうが――はてさて、当の二人はどう思っているのか
とりあえず来年は自分も恋人を見つけてみるかと考えながら、ライルはに椀を渡し、新たな具材を追加した
結局9時過ぎまで待ったが、ニールは帰ってこなかった
「それじゃーおやすみ。ライル」
「おう。寝ぼけて階段から落ちるなよ?」
「そんなことしませんー。
ライルこそ、寝ぼけて鍵かけてニール閉め出さないようにしなよ。」
「そんだけ言えりゃ上等だな」
くくっと笑い、ライルは唐突にの頭を撫でる
「メリークリスマス、な。」
「あ……うん。メリークリスマス。ライル」
少し嬉しそうには微笑む。
今日初めての笑顔だった。
「ふあ……さて、そろそろ寝ようかな」
風呂に入り、髪を乾かしてさっさとベッドに入る
薄いピンクのパジャマは、去年のニールのクリスマスプレゼントだ
「……ふぅ、」
鏡を見てもう一度ため息をつき、は布団を被って目を閉じる
「ニールのばか……」
静かな夜の空気に誘われ、の意識は眠りの淵へ吸い込まれていった
――ガタン、
真夜中を過ぎた頃、何やら物音がした
の意識が徐々に引き上げられていく
――ゴト、ガチャ、ガチャガチャ
自分の部屋の上だ。
はぼんやりとする頭を無理矢理起こし、ベッドから降りた
「何……?」
音の正体を探ろうと耳をすませる
「この音……」
くるりと後ろを向き、首を上げる
視線の先には外からも開けられる一つの窓
――ガコン、
見ているうちに、音を立てて窓が開いた
「よ――っと」
身体をよじりながら、誰かが入ってくる
「あー、起こしちまったか」
月明かりに照らされて、困ったような表情が浮かび上がった
「ニール……?!」
「悪ぃな、こんな時間に」
「どうして……っていうか、そこって……」
ニールが入ってきた窓はちょうど隣からも正面からも死角になる場所で、小さい頃はよくそこから出入りしていた
「ん?ああ、やっぱこの歳になるときついな」
「そりゃそうでしょう」
くす、と思わず笑みがこぼれる
すると、ニールがそっとの頭を撫でた
「よかった」
「え?」
「が笑ってくれて。
ごめんな、せっかくのクリスマスを台無しにして」
「んー……でも、ライルがいてくれたし、会いに来てくれたから、もういいよ」
仕方ない。それが自分の好きになったニールなんだから
もわかってはいたのだ。ただ、やっぱりそれを許せない自分が少し表に出てしまっただけ
「そっか。なら、これも今で間に合うか?」
言って、ニールはポケットの中から何か取り出す
手のひらサイズの小さな箱がに差し出された
「メリークリスマス。。遅くなってごめんな」
「ニール……」
そっと開けてみると、月を象った銀のネックレスが月明かりを微かに反射した
「わ、可愛い」
「指輪とかは着けられないだろ?だからこれにしたんだが……どうだ?」
「嬉しい……ありがとう、ニール!」
ぎゅ、とはニールに抱きつく
ニールもを受け止め、背に腕を回して優しく抱きしめた
「あー、やわらけー。あったけー」
つい数分前まで外にいた身としては、先ほどまで布団を被っていたの体温も熱いくらいに感じる
「もういっそこのままを湯たんぽにして寝るのもアリだな」
「ライルに怒られない?」
「……怒られるな。確実に。」
「じゃあ私も一緒に怒ってあげよう」
「それが寒い中会いに来た恋人に対する仕打ちか?!」
ひでえ、とげんなりした表情でニールは呟く
はふふっと笑うと、真正面からニールを見つめて言った
「じゃあ、来年は絶対一緒にクリスマスするって約束して」
「ああ、わかった。約束する」
最初から用意していたように即答して、指切りの代わりに額に口付ける
「ニール……大好き」
「俺も。愛してる、」
冷たくなった唇を、暖めるように重ね合わせた
--------------------------------------------------------------------------------
あとがき
うげー。まさか大晦日にクリスマス夢をうpするとはOTL
でもネタ思いついたのは26日あたりだったという事実。
なんかなー。ロク兄さんヘタれてる。
ていうかダブルオーのちゃんとしたの書くのって初めてかな?
まーいいや。プレゼントの元ネタが花より○子というのはここだけの話。
2008 12 31 水無月