「深司、オハヨー」
校門で見知った背中を見かけ、声を掛ける
「……おはよう」
「あら、いつもにましてテンション低いわねー。どーしたの?」
「……別に」
「ふーん……」
会話が一区切りついたと思うと、冷たい風が吹き込んできた
「うにゅー……寒いねー」
「もう11月だし……こんなもんだろ」
「まぁ、ねぇ」
下駄箱で靴を履き替えながら他愛もない会話をする
「そういえばさ、、昨日駅前のデパート行った?」
「へ?」
「アキラが昨日の帰り見かけたって」
「あー、うん、行った」
「そっか」
「それがどうかしたの?」
「……いや、ただ思いついたから訊いただけ」
「あ、そう」
教室が見えてきたところで、どちらからともなく会話が終わる
「――あ、そうだ」
別れ際になって、ふいにが立ち止まった
おもむろにポケットに手を突っ込んで、ごそごそと中を探る
「?」
「んーと……あ、あった」
ポケットから取りだしたそれを、は深司に投げてよこす
「今日2つ持ってきたからさ、あげるよ。――じゃ、」
(彼女の)手のひら一杯くらいのサイズのカイロ
はそれを手のひらでくるくるといじりながら教室へ入っていく
深司は一瞬呆気にとられていたが、
「――サンキュ、」
唇の端で小さく微笑い、カイロをポケットに突っ込んで教室に入っていった
「ふぁ〜〜あ………」
「眠そうだな」
「こないだ借りたゲームが面白くってさ〜ついつい夜更かししちゃって……あふ……」
「お前なぁ……」
昼休みに入るなり大欠伸をしたに、呆れたようなアキラのツッコミが入る
「いいじゃないの。漸く大会ラッシュが終わったんだし……一応こちとら部長よ?」
実際には副部長である杏の方がしっかり者なのだが、敢えて言わないことにした
「俺らだって同じだっての」
「そーだねー」
半分訊いていない様子で、は思いついたように訊ねる
「部長は深司なんだっけ?」
「あぁ」
「何だかんだで深司しっかりしてるもんね」
「そうなんだけどな……」
はぁ、とため息をつき、アキラは呟く
「あの様子じゃ、暫く使いもんにならねぇかな……」
「んー……?深司、どうかしたの?」
相変わらずといった様子で訊ねる妙な所で察しのいい目の前の女子生徒に、本日何度目かわからないため息をついてアキラは訊ねる
「お前、大事なこと忘れてねえか?」
「へ?――特にない……と思う」
多分、と付け足したに、アキラはもう一度深くため息をついた
「んじゃ、今日の行動思い出せ」
「今日の?う〜〜ん…………」
眉間に皺を寄せ、時々指を折りながらは考え込む
「……そんなに、変わったことはない……と思う。うん。
強いてゆーなら、今朝深司にカイロあげた」
ホラ、とポケットの中から冷めたカイロを取りだしてみせる
「……こりゃ重傷だな」
呆れた、という感じを通り越したアキラの呟きにが少しだけ顔を上げる
「何?なんかあったの?」
「今日は深司の誕生日だろーが」
「…………(この間60秒(笑)……マジ?」
虚をつかれたかのような、驚きの隠せない表情では聞き返す
「今日、深司の、誕生日。?」
そうだ、とアキラが頷くと、の顔は見る見る真っ青になっていく
「だから……って、いねえっ!」
コンマ数秒、という速さで、は教室を飛び出していた
「深司っ!」
2つ隣の教室に飛び込むと、中央列最後尾の男子生徒――言うまでもなく深司本人だ――がこちらを向いており、目があった
「……?」
「あー……」
思わず飛び込んでしまったが、言葉もなにも、ましてやプレゼントなんて意識の片隅にもなかった
「何かあった?」
「ちょ、ちょっと来て!」
ぐい、と深司の腕を引っ張り、無理矢理屋上へ連れて行く
「……で?」
何の用?と気怠げな視線でじとっと睨まれる
「いや、大したことじゃないんだけどサ、」
上手く言葉がまとまらず、硬くなってしまう
「その……今日、誕生日なんだって?」
「そうだけど」
「私全然知らなくて、さっきアキラから聞いたんだけど……」
ちらりと深司の様子を伺うようにとなりを見る
「…………」
深司は少し間をおいて
「――いいよ、別に。気にしてないし」
いつもと変わらぬ口調でそういった
「がそういうの拘らないのわかってたし、俺もそんなに興味なかったし」
「深司……」
「まぁ、さすがに本気で忘れられてたのはちょっとショックだったけど」
「う……ゴメンってば」
それでも、とははぁー、と安心したように長く息を吐き出す
「怒ってなくて安心した。
とりあえず今日はお祝いだねっ」
にっこりと笑い、深司を真正面から覗き込む
「プレゼント用意してないからさ、今日は深司に付き合うよ。
テニスでも何でも言って!」
「……」
深司は一瞬呆気にとられたようにぽかんと口を開けていたが、
「じゃあ、――」
す、と深司の顔が近づく
「――――っ?!」
……時間が止まったかと思った
「……じゃ、放課後待ってて」
「あ……」
いつもからかってる立場の自分が、暫くはその場から動けないでいた
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あとがき
遅くなってゴメンなさいOTL伊武くん誕生日オメデトウ
寒くなってきたのでカイロは必須かと。だってテニスだし(謎
相思相愛っぽいけど気づいてないヒロイン――みたいな感じでやってみました
アキラは多分わかってるっぽい。
んでもって都合上アキラ&ヒロイン/伊武くんでクラスわけちゃいました。
2007 11 7 水無月