「すっかりクリスマスだねえ」
ホットココアの缶を両手で包み、はしみじみと呟く。
「長太郎はずっと練習?」
「うん。そうなるだろうね。
さすがに年末年始は休みみたいだけど」
「ま、まだ中学生だもんね。私たち」
すっかり温くなったココアを飲み干し、入り口脇のゴミ箱に投げ入れる。
「お、入った」
テストも終わり、校内はすっかり冬休みモードに入っていた。





「部活の調子はどう?」
「上手くやってるよ。時々先輩も来てくれてるしね」
「あー、跡部さんとかたまに見る。
なんだかんだで面倒見いい人だもんね」
「そうだね。それに、宍戸さんもけっこう顔を出してくれるよ」
「知ってる。“夏休みの間だけ〜”とか言ってたのにね。
ま、亮さんらしいっていえばらしいけど」
「――何が俺らしいって?」
前方から聞こえた声に顔を上げると、校門にもたれていた男子生徒がひょい、と身を起こした。
「あ、亮さん。ウワサをすれば」
「? ウワサ?」
首を傾げる亮に、何でもない、と手を振って、と長太郎はそちらへ足を向ける。
「こんにちは。宍戸さん」
「おう、長太郎。今日はもう練習終わりか?」
「はい。榊先生がご都合が悪いとのことで。軽く自主練してきたところです」
そうか、と亮は納得したように頷く。
「ま、テスト終わったばっかだしな」
「そういう亮さんはどうしたの?」
「お前を待ってたんだよ。
長太郎にはお前から伝えてもらおうかと思ってたんだが、一緒ならちょうどいいぜ」
「? 何がですか?」
それはな、と亮は携帯を取り出してカレンダーを確かめる。
「っと……お前ら、今度の土曜空いてるか?」
「土曜って……25日?」
「ああ。25日の夜だ」
「夜?んー、クリスマスだけど多分空いてる。
亮さんがちっともデートに誘ってくれないから」
さりげなく言ってみると、亮はう、と表情を引きつらせた。
「し、仕方ねーだろーが。俺にもいろいろと準備ってもんが……」
むう、と唇を尖らせたが反論する前に、長太郎がさりげなく話に割り込む。
「あ、俺も夜なら空いてます。練習は半日の予定なので。
宍戸さん、その日に何かあるんですか?」
「ああ。跡部のヤツが別荘でパーティーするんだとよ。
で、お前らも来いって話だ」
「跡部さんが?」
意外な誘いには驚いて目を見開いた。
「ま、アイツの破天荒な行動はいつものことだからな」
「ああ、うん。……って、そうじゃなくて。
私も行っていいの?テニス部員じゃないのに」
「アイツはそんな細かいこと気にしねえよ。
それにお前、何かと俺たちのサポートしてくれたじゃねえか。今更だろ」
「あー……まあ、そう言われると……」
「俺はいいと思うよ。さんが参加してくれたらきっと楽しいだろうし」
「……亮さんも行くの?」
「そりゃあ……」
亮は一瞬口ごもって、
「……お前が行くなら、行くつもりだ」
照れ隠しに顔を背けて、ぼそりと言った。
「ん、じゃあ行く」
その答えに満足したのか、ははにかみながら頷いた。
「そ、そうか。
あー、それじゃ長太郎、若にも伝えておいてくれ」
「わかりました」
「んじゃ、帰るか」
さりげなく差し出された手を握ると、長太郎が後ろで小さく笑う。
こんなのは今に始まったことじゃないが、子ども扱いされてるみたいでちょっと悔しい。
いつか長太郎に彼女ができたらたっぷりしかえししてやろう、とひそかに考えてみる。






土曜日
「……あ、そろそろ行ったほうがいいかな」
時計を見上げて、はソファから立ち上がる。
さすがに普段着では行けないので、クローゼットを開けて着替えを出そうとしたその時、
――ピーンポーン
来客を告げる、気の抜けた電子音が鳴った。
「誰だろ……」
忙しいわけではないが、手短に済ませて欲しい。
そんな風に考えつつドアを開けると、そこには意外な人物が立っていた。
「やはりまだ支度してなかったな。
「あ、跡部さん……?」
来客は跡部だった。
高級そうなタキシードを違和感なく着こなしている。
「お前のことだ。出かける直前まで支度してねえだろうと思ってな」
「まあ、それは……でもどうしてうちに?」
「アーン?パーティの支度に決まってんだろうが」
「……うちで?」
「んなわけあるか。
お前、パーティドレス持ってんのか?」
「いや、ないですけど……」
そんな上流階級の持ち物を持っているわけがない。
とりあえずそこそこ洒落た感じのワンピースがあるので、それに軽く化粧をして済ませようと思っていた。
「だろうな。だが、仮にも俺様主催のパーティに出るんだ。それなりの格好はしてもらうぜ」
「えっ?」
が問い返す間も無く、跡部が指を鳴らす。
すると着付け道具や衣装ケースを持ったメイドさんが出てきて、は表に止めてあったワゴン車に連行されていった。




十数分後――
「――フッ。なかなかマシになったじゃねえか」
「どうも……」
ワゴン車から出てきたは、サーモンピンクの上品なドレスを纏い、髪も丁寧にセットされていた。
「重い……いろいろと」
はあ、とため息が零れる。
「何だ、不満か?」
「いえ、ドレスは素敵ですけど……これじゃあ恥ずかしくって、町歩けません」
「ったく……誰が歩かせるつった?アーン?」
「?」
パチン、と指が鳴って、着替えに使ったワゴン車が発進する。
それに続いて、見慣れたリムジンが玄関の前に止まった。
「……えーと、送ってもらえるってことですか?」
「俺様が主催である以上、この程度のもてなしは当然だ」
当然って……と、つっこむのも疲れたので、は礼を言い、車に乗り込んだ。
折角のイブなのだ。思いっきり楽しむことにしよう








跡部の屋敷に着くと、ずらりと並んだメイドや執事に出迎えられた。
「奥の広間で待ってろ」
とのことで、跡部と別れて案内された広間にゆっくりと一歩踏み込む。
きらめくシャンデが眩しい。
広間の中央には見慣れた面々がすでにそろっていた。
「こんばんわー」
いつもどおりに動けない格好をもどかしく思いつつも、声をかける。
「ああ、さん」
「……何だ、お前も来たのか」
「何だとは何よ。日吉のくせに」
どこにいても変わらない日吉とそんなやりとりをしていると、後ろから肩を叩かれた。
「そのくらいにしとき。日吉」
「忍足さん」
も。折角お洒落してきたんやったら、一番に見せたらなアカン奴がおるやろ」
ほら、と指差した先には複雑そうな表情でこちらを見つめる亮の姿。
「あ……」
何となく気恥ずかしくて、ゆっくり歩み寄る。
「えっと……その……
亮さんのスーツ姿、何だか新鮮だね。似合ってるよ」
「お、おう……その……お、」
「?」
「お前も、よく似合ってる……綺麗だぜ」
「あ……ありがとう」
会話が途切れ、妙な間が空く
「「……ぷっ」」
それが何だか互いにおかしくて、同時に噴出してしまった。
「何で今更照れてんだよ」
「亮さんこそ、顔赤かったよ」
「いや、でも驚いたぜ。跡部にもらったのか?」
「うん。急にうち来るからびっくりしちゃった」
「ったく……俺の彼女だってわかってんのか、アイツは」
ぽつりと零れた言葉は、ささやかな嫉妬。
それが嬉しくて、は亮の腕に自分のを絡ませた。
「お、おい、!」
「いいじゃん。折角のクリスマスなんだしさ
それに、こんな素敵な場所でお祝いできるのも、跡部さんのおかげでしょ?」
「まあ、それはそうだけどよ……」
「だったら思いっきり楽しまないと。あ、ほら跡部さん出てきたよ」
奥から出てきた主催者のもとへみんなで集まる。
今夜はめいっぱい楽しもう!



Let’s Party Tonight!!



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 あとがき
本当は昨日upしようと思ってました。
跡部のパーリーは書き出したらキリがなさそうなので寸止め。
宍戸さんがラブラブでクリスマス祝ってる姿が創造できませんでしたorz
 2010 12 27  水無月