「――――――……」
花の香りを載せた風が、柔らかな歌声をさらっていく
「――こんな所にいたのか、」
背中からかけられた声に、は歌うのをやめて静かに振り向く
「ヒスイ。どうしたの?」
「お前を捜してたんだよ。起きたらベッドの中にいねえし……」
昨夜確かに腕の中にいたのに、朝になって消えていれば誰だって焦る
「気づくかなーって思ってたんだけど、ヒスイよく寝てたから」
思い出して、よほどヒスイの爆睡っぷりがおもしろかったのか、は笑いをこらえながらゴメン、と一言詫びた
「……で、何してたんだよ?」
「歌を歌ってたの。リチアの教えてくれた歌」
エメラルドの月を見上げ、はゆっくりと手を伸ばす
――大切な友の眠る、もう一つの世界
「ようやく、世界は平和になったんだね」
「ああ、そうだな」
頷きながらヒスイはの隣に腰掛ける
失ったモノは多いけど、それに負けないくらい多くの喜びも手に入れた
「リチアやフローラさん……みんなが守ってくれた世界。
この世界を、誰もが幸せに暮らせる世界に変えてかなきゃね」
自分に言い聞かせるようには呟く
「ね、ヒスイ」
くるりとが振り向く
その瞳はきらきらと光りに満ちあふれていた
「私ね、夢があるの」
「夢?」
うん、と頷きはヒスイの傍に寄る
肩が触れるほど近づいたの髪が、淡く香る
「私、医者になりたい」
「医者?」
「そう。でもただの医者じゃないの。
みんなの、スピリアを癒す医者になりたいんだ」
「どういうことだよ?」
「スピリアを閉ざしてしまった人、傷つけてしまった人、傷ついてしまった人……
そう言う人たちのスピリアにふれて、スピリアをもう一度つなげるよう手助けするの」
真っ直ぐな瞳に迷いはない
「理由……訊いてもいいか」
ヒスイが訊ねると、はもう一度うん、と頷いて、エメラルドの月を指さした
「リチアと約束したの
『誰かがスピリアを閉ざしたりしないように、
閉ざしてしまった人が再びスピリアを開いていけるように、
私が手助けしていく』って」
ちかり、と同意するようにエメラルドの月が瞬く
「だから、私はみんなのスピリアを見守って、時には癒す、医者になりたいの」
夢を語るの表情はとても生き生きとしている
きっと、リチアにも同じように夢を語ったのだろう
「それに私、みんなと会うまでずっとひとりぼっちだったから……
だから、人々のスピリアがつながる、そういう世界ってとても素敵だと思うの」
人々のスピリアがリンクして、誰もが笑って暮らせる世界
フローラが望み、リチアが夢見る世界
二人の少女が見た、同じ夢
「ヒスイは、どう思う?」
「俺は――」
言葉を選んでいると、ふと少女の顔が浮かんだ
――リチアはなんと答えたのだろうか
ヒスイは眠りについた仲間のことを思い浮かべる
――きっとあいつは、
この世界を救うために、真っ直ぐな思いを抱き続けたあの少女は、
「……いいと思うぜ。お前らしくて」
こんな風に答えたのだろうか
「ありがとう、ヒスイ」
花が咲いたように満面の笑顔になるの髪をくしゃりと撫でる
くすぐったそうに身をすくめるが可愛らしくて、思わず笑みがこぼれた
「――ところで、ヒスイはこれからどうするの?」
舌から見上げるような目線では訊ねる
「俺か?そうだな……」
不意に訊ねられて、そういえば特にすることもないことに気づいた
ノークインに戻ることも考えたが……イマイチぱっと来ない
しばらく考え込むように空を見上げ、
「……よし、決めた」
ヒスイは小さく呟くと、もう一度の髪を撫でた
「わっ?」
「お前についてくことにするか」
「え?」
「考えたら危なっかしいしな。お前」
「ちょっ……どういうこと?!」
「お前、シング並に馬鹿だし……」
「う゛っ……」
「……リチア並に無茶するからな。
もし怪我でもされたら俺が困る」
「ヒスイ……」
「何か文句あるか?」
「……ううん、すごく嬉しい」
春色に染まる草原の上で、エメラルドの月が輝いていた
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あとがき
やっつけ仕事感前回でスミマセンOTL
ネタを考えてたとき、ちょうどハーツクリアしたんで書いてみたらみごと玉砕しました
なんかヒスイがヒスイじゃない……そして全然絡んでないorz
2009 2 28 水無月