「――何、考え込んでるの?」
モニター越しに荒れ果てた外界の様子を見ていたゼロは、背後からの声に首だけ動かした
……か」
「珍しいわね。そんなふうに物思いに耽ってるなんて」
自分のカップにストローを差し、ゼロの隣に腰を下ろす
それほど広くないシートなので、少しだけ肩が触れ合った
「何か用か」
再びモニターに視線を戻し、ゼロは短く訊ねる
「特にそういうわけじゃないの。
少し時間が空いたから、話でもしたいなーって
仮にも『恋人』なんだし、いいでしょ?」
手に持ったコーヒーを飲んで、甘い、と呟く
は席を立つと、コーヒーメーカーに豆を足してコーヒーを入れ直した
「相変わらずだな、お前は」
嘆息し、ゼロはの背に言葉をかける
「過ぎたことを考え込むのは私の性分に合わないの
……どれだけ足掻いても、過去は変えられないのだから」
かちゃん、とポットを置く音がやけに響いた





ルミネによる、軌道エレベーターヤコブの事件から1ヶ月あまり


エックス達が帰ってきたときはほっとした
けれど、事は予想以上に深刻なところまで来ていた


今、ハンターベースは新世代型の研究に追われており、もメカニックマイスターとして寝るまもなく研究に勤しんでいる。それでも彼女がこうして平然としているのは彼女が半身機械人であるからだ





「……ゼロ、」
はしばらく何か考え込むように俯いていたが、やがてすっと顔を上げると、
「……うりゃっ」
シートに座っていたゼロに、何の前触れもなくデコピンを喰らわした
「っ?!」
突然の事に、ゼロは鳩が豆鉄砲喰らったような表情になる
「な、何するんだ!」
「ん、何となく」
「……」
ゼロははぁ、と溜息をついた
「でも、そうやって一人で考え込むのってゼロらしくないと思うわ」
「そのくらい自分でわかっている」
「そうね」
こくん、とコーヒーを一口飲み、は再びゼロの隣に腰を下ろす
「私は実際に戦わないから、外で何が起きてるのかはわからない
報告は受けてるから結果はわかっても、どういう経緯でそうなったのかはわからない
だから、あなたが今何に悩んでいるかも見当が着かないわ」
言葉を選んでいるのか、は一言ずつ区切ってゆっくり話す
「でも、私たちは仲間だって思ってる。私はね
だから……その……ええっと……」
見つからない言葉を誤魔化すように、何度もコーヒーを口に運ぶ
その仕草に普段とのギャップがありすぎて、ゼロはふ、と笑みを零した
「笑わないでよ!
……だいだい、こういう感情論は得意じゃないの」
ぶつぶつ呟き、もう一口コーヒーを飲む
「つまり、私が言いたいことは……その……
一人でうじうじ悩むな、ってこと。」
カップを置いて、は自分の手をゼロの手にそっと重ねた
「前に、エックスが前線から離れた言っていったとき……考えてたの
私たちはこの世界を救うためにここにいる。
時には破壊を強いられることもあるかもしれない。
……否、私たちは世界を救うための破壊者なんだって」
「エックスが聞いたら猛反論されそうだな」
「もうされた。……エックスらしいけどね。
でも、私はこの持論を曲げない。間違ってるとは思わない」
ぎゅ、との手に力がこもる
「だって、実際に戦っているあなたたちは……誰かを傷つけながら自分も傷ついてる。そうでしょう?」
「……さあな」
「ゼロはそうだと思った。
でも、エックスはわかりやすい形で表に現れた。
ある意味、正しい形なのかもしれない」
「アイツは根が真面目だからな」
「で、あなたはずっと表に出さない」
「自分でもわからないものをどうしろっていうんだ」
「頼ってくれればいいのよ」
「……頼る?」
使い慣れない単語に思わず聞き返す
「言ったでしょ。仲間だと思ってるって。
だからこそ、勝利はみんなで喜ぶべきだし、真実はみんなで受け止める
悩みがあるなら話しあう。……当然でしょ。
あなた達レプリロイドは、今どきの人間より人間くさいんだから。」
ふ、と珍しくが優しげな笑顔を見せた
「みんな、力になりたいと思ってるのよ。
あなた達は何度も世界を救ってきた、それ故の悩みがあるから」
「……そうか」
素っ気ない返事に、はゆっくりと重ねた手を引っ込める
「……なんて、こんなお説教自体私らしくないか。
ま、人間の持つ気まぐれさ故の戯言だと思っといて」
そういってそのまま席を立とうとして、

「――待て、
くい、っと腕を引っ張られた
「っ、?」
突然のことに抵抗できないまま、ゼロの腕の中に収まってしまう
「な、なに?」
「しばらくここにいろ。……話しておきたいことがある」
青い瞳はどことなく真剣味を帯びていて、
「……ん、わかった」
も同じくらい真剣な表情で頷く


荒涼とした外界を移すモニターが、低く唸りながら静かに閉じていった




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 あとがき
支離滅裂ですね。はい。
なんか良くわかんない状況で書いたらよくわからないものができあがりました。
とにかく、ゼロに向かってくさいことを言いたかったんです。
 2008 1 18  水無月