「わぁ……真っ白……」
医者を呼ぶために立ち寄ったフラノールの町は、まさに銀世界という言葉がピッタリだった。
止むことなく降り続ける雪は、街の明かりに照らされきらきらと舞い落ちていく。
音を奪いながら積もっていく雪はいつまでも見ていて飽きなくて、は寒さも忘れて立っていた。
「雪ってこんなにきれいなのね……」
前回訪れたときは別行動をとっていたので、にとっては初めてのフラノールになる
「こんな所を好きな人と歩けたらな……」
展望台から振り返ると、周りは男女のカップルばかり。夕食時を過ぎた少し遅い時間なので、そういうコトにはちょうど良いのだろう
「独り身は私だけ……かな」
他の待機メンバーはみんな出払っている
ロイドとコレットは散歩してくると言っていたし、ゼロスはいつものようにふらりといつの間にかいなくなっていた
一人で部屋にこもっていても暇なので、出てきてみただけなのだ
「何か空しくなってきた……」
幸せそうなカップル達を眺め、はぁ、と深くため息をつく
とぼとぼと展望台を降りていくと、人気のない公園についた
少し低くなったが、それでも変わらない銀世界の美しさに切ないものがこみ上げてくる
「クラトス……」

――あなたに、逢いたい




シルヴァラントで出会って、恋に落ちて、
救いの塔で再生の旅の真実を――クラトスの正体を知って、
複雑に絡み合った想いが溢れて、壊れそうだったのを支えてくれたのは彼の言葉と短い旅の思い出
恋人として過ごした時間を、彼のくれた言葉を信じていたい――
それだけがの希望だった

過去に縋ることでは何とか自分を保たせていた
未練がましいと自分でも思う
けれど、そうでもしないと生きていけなかった。
仲間たちも、の思いを咎めることはしなかった


「今、どうしてるのかな……」
テセアラに来てからクラトスは度々接触してきた。時には手助けもしてくれた。そして、数時間前――アルテスタの家でも、ロイドを庇った
いつしか、希望は願望へと変わっていた


一度会ったらまた会いたくなってしまう。
回数を重ねる毎に思いは強くなっていく
人混みの中、無意識にその姿を探していることもあって、一度本気で心配されたときはさすがに反省した。

「……もう、嫌……」
こんな未練がましい自分が嫌になる
忘れたいのに忘れられなくて、言い訳にして縋っている
「……っ」
ぺち、と頬を叩く
雪で冷たくなった手で触れると、否応なしに目が覚めた




「――

覚めた、ハズなのに……姿を追うどころか幻聴まで聞いてしまった。もう末期なんじゃないか私
「も……どうしてっ……」
ひゅお、と風が吹いて冷たい手と頬を容赦なく刺激する
――思いにケリを着けろ、と言っているようだった
ぎゅ、と目を閉じる。拳を強く握る
決意を固めて、ゆっくり振り向く



「――う、そ……」
決意は一瞬にして砕かれた
「やはりか……」
「クラトス……?」
いないと思って振り向いたのに、どうしてよりによってこうタイミングが悪いのか
「……一人でいたのか」
「クラトスこそ……一人じゃない」
「お前にはロイドたちがいるだろう」
「今は、私とロイドとコレット、それにゼロスだけ。
あとはアルテスタさんとこ行ってる」
「……そうか」
話しながら、さりげなくクラトスはの隣に並ぶ
「ミトスを止めることができなかったのは私の責任だ
……アルテスタは、大丈夫だったのか?」
「リフィルが応急処置してくれたし、ここのお医者さんは腕がいいらしいから……きっと大丈夫。」
大丈夫、そう信じている
「……クラトスは大丈夫なの?
ユアンの攻撃……まともに食らってた」
「大丈夫だ。……心配をかけたな」
首をこちらに向け、ふ、と優しく笑う

――その笑顔は反則だ

不覚にもドキンとしてしまい、それが悟られないよううつむいて顔を逸らす
「それより、どうしてこんなところに?」
「ロイドの様子を見に来たつもりだった」
つもりだった、と言われ、そう言えばロイドはコレットと出かけたのだと思い出す
「そう、振られたんだ」
素っ気ない言葉でしか話せない自分がもどかしい
聞きたいことがたくさんあるのに、伝えたい想いがあるのに
言葉が上手く出てこない

「……、」
「なに?」
合わない視線。ぎこちない言葉
救いの塔で分かれてから、二人きりで会うのは初めてだ
「私を恨んでいるか?」
唐突な問いかけに、え?と思わず振り向く
「私はお前の思いを受け止めておきながら……あの時お前に剣を向けた」
「……うん」
「お前たちがマナの欠片を取りにくることもわかっていて、二度剣を向けた」
「……うん」
クラトスとの戦闘は、本当に辛かった
彼の強さもあるが、特別な思いを抱いている分じくじくと心は痛む
「でも……クラトスは私たちを助けてくれた」
心が痛むのは、クラトスが敵だと思えないから。
本当に裏切られて、憎しみを抱くようなら心は痛まない
「救いの塔ではとどめを刺さなかった。その後も、ずっと……殺そうと思えばいつでも殺せたのに
ウィルガイアでマナの欠片を手配してくれたのもクラトスでしょ?
それに……クラトスはロイドを庇った。それが、何よりの証拠」
先ほどとはうってかわって、滑るように言葉が出てくる。
恨んでいるか、と。そう訊ねたクラトスの表情がすごく哀しそうで、切なそうに見えたからかもしれない
「ロイドも、他のみんなも……クラトスのことを恨んだりはしていないよ」
「……そうか」
クラトスはそっと腕を伸ばし、の頭を優しくなでる
「辛い思いをさせたな……すまない」
「……っ」
――ヤバイ、こんなことされたら
愛おしむような手のひらの温度に、振り切ろうとしていた思いが抑え切れなくなる
「……やめ、て」
うつむき呟く
「……?」
「優しくされたら……諦められなくなる……」
……」
頭をなでていた手が背に回され、強く抱きしめられた
「またクラトスと戦うかもしれないのに……クラトスのこと好きでいたら辛い思いするから……
だからずっと諦めたかったのに……」
知らず、涙声になる
クラトスの肩に顔を埋め、胸の内を吐露する
恨むことなんてできなかった
こんなにも人を好きになったのは初めてだった




「クラトス……好きなの……」
縋るような声
こんなにも切なそうな表情をする女だっただろうか?
腕を緩め、クラトスはの表情を伺う
目尻にためた涙がこぼれ落ち、頬に筋を描いている
それでも唇はやや強く引き締められていて、彼女の葛藤を思わせた
――」
「……んっ……」
その唇に自分のそれを重ね、優しく解してやる

旅の途中、を愛して――彼女が幸せでいてくれるのなら、何をしてもいいと思っていた
裏切り者の烙印を押されても、この身が朽ち果てようとも構わないと思っていた
だが、何故だか――は自分でなければ幸せにできないような気がしたのだ
愚かだと罵られてもいい。自惚れだと笑われてもいい
愛しい存在を守りたいと、それは言葉にすれば陳腐でありきたりな感情
だが今は、温もりと共に伝わるその感情だけが互いを支える希望だった





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 あとがき
11月お題は希望です。トパーズだったかな?
初クラトス。そしてキャラ崩壊。
もう何がなんだか。路線もまともに定まっていません
フラノールイベントはまだ一度しか見ていません。しかもリフィル(ぇ
今やってる周ではクラパパ目指しているのでゼロスが死にます(ぁ
まさかゼロスの次にクラトス書いてそして最後にゼロスを殺す羽目になろうとは……