『ごめんね』
再会した彼女の第一声は、その一言だった
転海屋・蔵場の事件から数日後
帰らぬ人となったミツバの葬式は身内だけでひっそりと行われた
「久しぶりだね」
簡素な葬儀が終わり、隊舎の縁側でと近藤たちは話しをしていた
「みんなずいぶん立派になったねぇ。それに背も伸びてる」
「も、元気そうだな」
「ん、まあね。
何もない分のんびりしてたし……」
笑ってみせるが、その顔には覇気がない
「……、どうして江戸に?」
土方が訊ねると、は一度目を伏せ、
「転海屋」
怒りそうな、泣きそうな表情で答えた
「ミツバを世話してるって言ったら、是非一緒にって。
悪いからいいって断るつもりだったけど、ミツバも行こうっていうから……」
つ、と白い頬に水滴が流れ落ちる
「ごめん……私、ミツバを守れなかった……!」
「、泣くな」
「私が守るって決めたのに……約束したのに……!
私は……何もできなかった……」
守れなかった
大切な人を、守ることができなかった
そのことが罪としてにのしかかる
「、ミツバ殿のことはお前だけの責任じゃない。
……いや、むしろ責任を問われるべきは俺たちだ」
「でも……!」
「そんなに自分を責めないでくだせぇ。
……姉上が、悲しみます」
「……ごめん、ね」
ぽとり、と頬を伝って涙がこぼれ落ちた
黒い着物に涙の染みがじわりと広がる
「どうして、俺たちに言わなかったんだ――」
どこか怒ったような、それでいてつらそうな声
土方はそっとの肩に手を乗せる
「お前の刀は転海屋に取り上げられていた
お前は奴らの秘密にいち早く気づいた
――どうして、俺たちを避けるような真似をした」
震える肩、止め処なくあふれる涙
ぽつ、と涙をこらえながらは答える
「ミツバを……幸せにしてあげたかった、それだけ」
「あいつらのやっていたことを知ってもか」
「それでも!ミツバの涙はもう見たくなかった!」
涙混じりの声が間近に響く
「ミツバは……もしかしたら気づいていたのかもしれない。
あの男の秘密にも、歪んだ愛情にも。
……でも、ミツバはあの男を取った。
なのに私やトシたちがその本人を逮捕したり……斬ったりしたら、
ミツバはきっと悲しんだ。
大切な人が大切な人を殺した
大切な人が大切な人に殺された
そんなこと……私には出来なかった!」
土方の手を振りきり、はその場を走り去っていった
翌日――
「し、勝者、!」
スパァン!と小気味のいい音が道場内に響いた
「すげぇ……」
「あの身体のどこにこんな力が……?」
他の隊士たちには目もくれず、騒ぎの張本人――は頬にかかる髪をかき上げる
朝から道場内をにぎわせていたのは他ならぬだった
「……で、近藤さん。これはどういうことだ?」
竹刀を振るい隊士たちを打ちのめしていくを見ながら土方は訊ねる
見回りから帰ってみると道場の方が騒がしい
何事かと来てみればが隊士たちと剣を交えているではないか
「が俺の所に直談判しに来たんだ」
「何でだ?」
「ウチの隊士になりたいそうだ」
「隊士って……」
朝、土方が見回りに行ってすぐ、は近藤を訪ねた
『近藤さん、私を隊士にして』
『どういうことだ?』
『守りたいの。罪のない人々をこれ以上荒事の犠牲にしちゃいけない』
『俺はかまわんが、他の隊士たちが……』
『……なら、私の実力を証明する
誰が相手でも良い。トシでも、総悟でも』
そして、今に至る
「どうして止めなかったんだ」
「俺には止める理由が見つからなかったからだ
お前はが入ることには反対なのか?」
「……あいつは女だ」
「女である前には俺たちの仲間だ。
剣術の腕も確かだし、俺たちよりも学問に秀でている
これをひっくり返すのにそれだけじゃ理由不足だろうが」
「――なら、」
無表情のまま、す、と土方は腰を上げた
「、俺が相手だ」
ばたばたと倒れる隊士たちをまたぎ、土方は竹刀を手に取る
「トシ……」
「俺が相手でもかまわねえんだろ?」
「――もちろん」
きゅ、と髪を結い直し、は竹刀を構える
正面に対峙し、土方も竹刀を構える
「し、試合始めっ!」
そそくさと審判役の隊士が逃げるが、二人はいっこうに動かない
「――、」
「……何」
「俺が勝ったら諦めて帰れ」
「好きにすればいい。負けるつもりはない」
言うなり、は大きく一歩踏み込む
「!」
正面からの一撃を弾き、土方は横に跳んだ
「逃がすか!」
キ、と強くにらみ返したの顔にはすさまじい迫力があった
間髪入れず、早い横薙が飛んでくる
それを竹刀で受けるが、本気のの一撃はかなり重かった
「っ……、」
ギリ、と軋む竹刀を挟み、土方は小声で訊ねる
「何でウチに入る……」
「……罪のない人々を守るために」
「そんな綺麗事は聞いてねえ」
「……力が……欲しい」
「力……だと?」
「力を使うための力が……欲しい」
「権力か……そんなもんに縋ってどうする?!」
が、と土方はを竹刀ごとはじき飛ばす
「お前は刀を振るうためだけに権力を手に入れてえのか?
それがお前の理由なのか?」
「……!」
一瞬隙のできたに、竹刀が容赦なく振り下ろされる
「っつ……」
それを竹刀で受け、今度はが押される番となった
「そんなに刀が振りたきゃ浪人にでもなれ!
俺たちが容赦無く斬りに行ってやる!」
「違う!!」
叫んだは勢いで竹刀をはじく
その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた
「私は……守りたいの!
大切な人たちを守りたい……もう失いたくないの!」
の悲痛な叫びが道場内に響く
荒い息で、は語った
「……転海屋に捕まって、刀を取り上げられて、
私は何もできなかった……あいつらのウチ誰一人として倒すことができなかった……
“ただの女”である私は、あいつらのまえでは無力だった!」
長く息を吐いて、は竹刀をまっすぐ土方に向ける
「刀が欲しい。力が欲しい。
もうミツバの時みたいなことは起こさせない
私は私の大切な人を守る。そのためなら……あなたも踏み越えてみせる!」
の言葉一つ一つを、土方は無表情で受け止めていた
「……、」
懐からたばこを取り出し、火をつける
「お前の言い分はわかった」
言いながら、土方は竹刀をおろす
「試合は終ぇだ。
お前らもさっさと持ち場に戻れ」
「トシ?!」
突然のことには驚きをあらわにする
「ちょっとトシ!どういうこと?!」
「……」
土方は無言で歩み寄り、抗議するの腕をぐい、と掴むと、
「トシ――「こいつを新撰組隊士として認める。今日から俺たちの仲間だ」
そう言い残し、の腕を引いて道場を後にした
「トシ……?」
人気のない所までつれてこられて、は戸惑う
「どうしたの、ねえ「」
言葉を遮り、土方は掴んだの腕をそっと引いた
「っ?!」
突然腕を引かれ、はそのまま土方の方へ倒れ込む
土方は頭一つ分背の低いの身体を受け止めると、そのまま背中に腕を回した
「と、トシ?!」
「暴れんな。……少し話を聞け」
諭すような口調で土方は話す
「アイツのことを悔いてるのはお前だけじゃねえ。
お前の言いたいこともわかってた。
でもな、……」
少しだけ、腕の力が強くなる
「お前も、俺にとっては大切な女だ
お前まで傷つけたら……アイツに会わす顔がねえ」
「トシ……」
「お前まで血に染まった人生を歩ませたくなかった。
けど、お前は何度追い返してもめげずにやってくるだろうからな」
「それは……そう決めたから」
「わかってる。
だだ、一つ約束しろ」
「約束、?」
ああ、と土方は頷く
「俺の傍にいろ。
お前はお前の信じたようにやればいい。俺がお前を守る。」
ぎゅ、と強い腕の力がその決意を示していた
「ん……わかった。約束する」
血豆だらけになった手で、は初めて大きな背中に腕を回した
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あとがき
一日遅れたぜorzまあ仕方ない。
とりあえずトッシー誕生日おめでとう!!( ^^)Y☆Y(^^ )
構成は出来てたんですが、短編でまとめようとしたらごちゃごちゃに……;;
結局何がしたかったのかよくわかんない感じでしたorz
最後の場面でトッシー小説だとアピール!
んでもって何故か必要以上に近藤局長が出張ってしまったという事実。
多分アニメの影響。まあ仕方ない。
設定としては近藤らの幼なじみで、ミツバさんと一緒に残って世話をしていた。てな感じです
2008 5 6 水無月