カミツレ――逆境の中の活力
「俺らは上だ!」
「うん!」
1000年越しの想いと、世界の命運をかけた戦いが静かに始まった
「……ね、ギップル」
ヴェグナガンの頭部へと向かう途中で不意にが話しかけてきた
「どうした?」
「傷、もう大丈夫なの?」
不安げな瞳で見上げてくる
「大丈夫だって。薬も分けて貰ったしな。
それに、お前らだけでいかせるわけにもいかねえだろ」
あいつもいるんだしよ、とギップルは笑顔で言葉を返した
「……わかった。けど、無理はしないで」
おとなしく引き下がるに、思わず眉をひそめる
「何かあったのか?」
「あ、そう言うワケじゃないよ」
困ったような疲れたような、は作った微笑みを浮かべる
何か考えていることは一目瞭然だった
「……ったく」
呆れたように息をつき、くしゃりとの髪をなでてやる
「ギップル?」
「お前も無理すんなよ。危なくなったら早めに下がれ」
「ん……そうだね。肝に銘じておくよ」
少し乱れた髪を整え、はふ、と薄く微笑んだ
「うらぁっ!」
ガウン、ガウン、とギップルの重火器が轟音をたてて火を噴く
「はっ!」
その傍らでの二丁の拳銃が、ぱぱぱぱぱぱ、と間髪入れずに弾を撃ち続ける
「っ……効いてるの?!」
「おそらく大したダメージではないはずだ
こうなったらやはり……」
ぴたりと、ヌージの銃の照準がヴェグナガンの上方――操縦席へと向けられる
「ヌージさん、ダメ!」
素早く察知したがその手を押さえ、行動を制した
「私は……私とギップルは、バラライさんを助けたい!
ヌージさんにとっても、大切な仲間なんでしょう?
きっと何とかなる。ヴェグナガンはきっと破壊できる。
だからユウナたちを信じて、今は少しでもコイツの頭にダメージを与えよう」
「だがどうするつもりだ?
俺たちにはこの手の銃器しかない。あいつにまともなダメージを与えるにはもっと火力が必要になる」
ヌージの問いに、はにやりと自信ありげに笑みを浮かべる
「私が援護します。
――ご存じないですか?私のかつての二つ名」
銃をしまい、は両の手のひらを頭上にかざした
「ギップル、ヌージさん、
私を信じて、撃ってください!」
「よっしゃあ!行くぞ、ヌージ!」
じゃき、とギップルが重火器を担ぎ直す
「まったく……お前たちは……」
呆れたようにため息をついて、それでもしっかりとヌージも銃を構えた
ずどどどどどどん、と大小2つの銃弾が雨霰とヴェグナガンの装甲に降り注ぐ
「――”紅蓮の炎よ、走れ、翔ろ、刃を包みて敵を貫け”!」
ぽう、と淡く光った手のひらから炎が走り、銃弾一つ一つを包み込む
炎に包まれた銃弾は数倍の早さに加速し、強固な装甲を貫いていく
「――破壊の女神か、捨てたもんじゃないね」
派手な銃声に、に、と笑みを浮かべ、詠唱を続ける
「”走れ!翔ろ!”」
やがて、頭部装甲の一角が大破した
「――っつ……」
同時に、の体が崩れ落ちる
「?!」
片手で抱き留め、顔色をうかがう
「おい、しっかりしろ!」
呼びかけると、うっすらと瞼を持ち上げた
「あ……やば……」
ぐったりと腕の中で脱力するを抱え、ギップルはヴェグナガンをにらみつけた
「……っのやろぉ!」
ガウン、ガウンと銃弾を撃ち込むが、ヴェグナガンの装甲には効かない
「……っギップル……」
小刻みに振るえる腕を伸ばし、はそっとギップルを止める
「無茶しないで、……」
「……」
「大丈夫……ちゃんと援護する、
……あの程度で倒れるなんて、女神の二つ名が泣くね」
はは、と自嘲気味に笑みを零し、はゆっくりと体を起こす
ふらつきながらも何とか立ち上がる彼女の背中に軽くため息をついて、ギップルは隣に並んだ
「まったく、一度言い出したら聞かねえな。俺の女神様は」
「ギップル?」
「俺が支えてやる。お前はやりたいようにやれ。
俺の女神様は”破壊”じゃなくて”勝利”の女神様だからな」
言いながらくしゃりと髪をなでてやる
「――うん!」
強気ないつもの笑顔で、は答える
「――”炎獄の怒りよ……滅ぼせ、焼き尽くせ、汝に抗う全てを飲み込め”!」
どんなに苦しくてもがんばれる気がする。
信頼できるパートナーが、力が、そこにはあるから
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あとがき
花言葉お題、最後を飾るのは今ブームのきているギップルさんでw
カミツレはカモミールとも呼ばれている花ですね。
この小説のタイトルは「苦境の中の活力」ですが、この花は「苦難の中の力」という言葉で、
ある小説にも登場しているすてきな花です
まぁぶっちゃけて言えば図書館戦争なんですけどね
ちょうど3月の花でこの花の花言葉で終われたことを嬉しく思います
蛇足ですが、多分今まで書いた中で一番擬音語の多い小説です(笑
2008 3 14 水無月