レプトスペルマム――質朴な強さ
「はぁ……」
静かな灯台の下で、はため息をこぼした
右の腕に装着したデュエルディスクを抱え込み、腰を下ろして風を受ける
「次……サボっちゃおうかな」
オベリスクブルーの生徒として学園の生活を送って早2年
成績は優秀であり、人間関係も良好。
一介の女子学生としては順風満帆と言っても過言ではない
「今更退学なんてできないし……」
はぁ、と再びため息がこぼれる
手持ち無沙汰になって、はデッキをホルダーからはずし、ざっと眺めた
「何がいけないんだろう……私の……何が…「悩み事か?」
突然声をかけられ、はびくっと身を震わせる
「り、亮先輩……」
「、どうした?」
「えっと……ちょっと考え事です」
立ち上がり、デッキを慌ててしまう
「それより、先輩はどうしてここに?」
「何となくだな。散歩がてらだ」
「あぁ。ここの風、気持ちいいですよね」
にこりと笑い、さりげなくディスクを後ろ手に持ち変える
「……、何を悩んでいる?」
「え?」
またも突然の問いに、は間の抜けた声を出す
「あ、いえ……私は別に……」
「無理をするな――顔色が優れないぞ」
言葉とともに、す、と亮の手が伸びる
「あっ……」
ぴたりと額に当てられた手は温かく、大きい。
他にも距離の近さや、二人きりと言うこともあってか、の顔は見る見る真っ赤になっていく
「熱はなさそうだな……
――どうした?顔が赤いが」
「い、いえ!大丈夫です!」
慌てて一歩退き、顔を逸らして言葉を探す
「あの、先輩、」
言葉をかけると、視線が返ってくる
「次の授業、は……大丈夫ですか?そろそろ休み時間終わりそうですけど」
「教諭の都合で自習になった。少しくらい遅れてもかまわんさ」
「そう、ですか……」
「はどうするつもりだ?」
「私は……ちょっと……」
「――サボり、か。珍しいな。何かあったのか?」
「次の授業……クロノス教諭の実技なんです」
「実技が嫌いなのか?」
「嫌いじゃないんです。ただ、自信がもてなくて……」
「自信、か」
はい、とは頷く
「自分で言うのも変なんですけど、私、学業はがんばってるんです。自信もあります。
――でも、実技の……肝心の実戦でうまくいかなくて……」
「勝てないのか?」
「いえ、勝つことはできるんです
……でも、勝つだけなんです」
「どういうことだ?」
「インパクトに欠けるというか……戦ってもおもしろくないって言われるんです」
「……」
泣き出しそうなの横顔に、亮は言葉を飲み込む
「……デッキを見せてくれるか?」
「? どうぞ」
ホルダーからデッキを出し、亮に手渡す
「ふむ……」
しばらくそれらを眺めている亮を、はただ見つめていた
「――なるほど。以前よりモンスターとトラップのバランスがよくなっているな」
「はい。高レベルモンスターとのバランスも考えて、能力(スペック)よりも効果(エフェクト)を重視して、
同じモンスターを重ねた構造にしたんです」
「そうだな。見た限り、デッキに問題点はない。
攻守が両面ともきちんと成立している」
「ありがとうございます」
返されたデッキをホルダーにしまおうとすると、
「待て」
亮の手が、それを止めた
「?」
「多少だが、お前の力になれるかもしれん
――俺と、一戦交えてみないか?」
「えっ……?」
「どうせ授業には間に合わないしな。次は実技なのだろう?」
「それは……そうですけど、」
「それとも、俺では役不足か?」
「そんなことないです!
……よろしくおねがいします」
丁寧に頭を下げ、デュエルディスクを装着し直す
「全力でこい、!」
「は、はい!」
がしゃん、と機械音がして、ディスクが展開する
「「デュエル!!」」
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「――完敗です。さすが亮先輩ですね」
「いや、そんなことはない。お前の戦術もなかなかのものだった」
「亮先輩……」
「あれほど複雑なカウンターとチェーンはそう易々と組めるものではない
お前自身の努力と経験の賜物だな」
「そんな……ほめすぎですよ。
私はただ、好きな天使たちの力を最大限に引き出してあげられるようにデッキを組んだだけです
あまり攻撃力がないので、守ることを考えて組んだらいつの間にかこういう風になっていて……」
「攻撃は最大の防御、というが……デュエルではその逆もまたしかりということだな。
お前のデッキはそれを体現している」
「守ることは……私の大切な信念ですから」
少し嬉しそうに微笑み、はデッキをきゅっと握りしめる
「守るい言うことは、攻撃が基本であるこの世界において一見地味に見える。
だが、お前の実力はその中でこそ真価を発揮する
一度でも戦えばそれははっきりとわかる。
――お前の強さをな」
言って、亮はくしゃりとの髪をなでる
「お前の実力は本物だ。力のあるものはそのことを理解している。だから自信を持て」
「は、はい。ありがとうご――、っくしゅん」
微笑んだは、咄嗟に手で口元を押さえた
「大丈夫か?」
「あ、はい。ちょっと風に当たりすぎたみたいです」
「そうか……仕方ないな」
呟くと亮はそっとの手を取り、軽く力を込めて自分の方へ引いた
「――わっ?」
ぽす、と空気の弾むような音を立てて、は亮の胸元へ倒れ込む
「これなら寒くないだろう」
「あ、あの……亮先輩……」
「? まだ寒いか?」
「そうじゃないんですけど……その……」
かぁ、とは顔を赤くする
「まだ授業中だから、戻るわけにもいかないしな。
――それとも、俺では不満か?」
「そんなことないです!」
真っ赤な顔で即答し、すぐにうつむく
腕の中で身を固くするの様子に、亮は微笑みをこぼす
「上に着れるものがないからな。嫌なら無理をするな」
「そんなことないです。――ありがとうございます」
照れたようにはにかむを、亮は愛おしそうに抱きしめた
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あとがき
遅くなりましたが1月の花言葉お題です
相手は最近マイブームな遊戯王GXからこれまたブームなカイザー様。
好きですよー。ホント。リスペクトキャッホォォオィイ!!(謎
ちなみに、作中でヒロインが使っているデッキは管理人のものと同じです
2008 2 17 水無月