やどりぎ――困難に打ち勝つ
「ぐっ……!」
重たい一撃が腹の底に響く
それでも何とか顔を上げれば、黒い影が目前にまで迫っていた
「っ――うらぁっ!!」
考えるよりも先に放たれた拳に、鉄の砕ける感触、
そして、切り裂かれた皮膚から血が流れるのを感じた
どかん、と派手な爆発音が響き、敵の破壊を耳で確認
同時に、一瞬目の前が真っ白になった
――ユウ…………
……早く……来て…………
とある街の鉱山にアクマが多数出現するという話が教団に入り、
その隣の町から帰還する所だったが駆り出されたの昼を半刻ほど過ぎた頃だった
『今すぐ神田くんを向かわせるから、騒ぎが大きくならないよう食い止めていてくれ』
コムイの連絡を信じ、はひたすらに戦っていた
ただ一人、互いに心を許しあった男の到着を待ちながら
「――っ……参ったなこれは……」
街への侵入を阻止するため鉱山の中まで入って根元から叩くつもりだった
しかし、鉱山の奥で待っていたのは大量のLv1を従えたLv3のアクマ
「このままじゃ押し切られるのも時間の問題か……」
任務直後できちんと休息をとっていなかったため、の身体はいつになく疲弊していた
「仕方ない……やるしかないか……」
アクマ達の死角に潜めていた身体を起きあがらせ、小さく息を吸う
「いくよ……“悪魔の動揺”[イビルフラッター]」
両拳と脚に装備された灰銀色の武具を一瞥し、目を閉じて集中する
「イノセンス――第二開放!」
発動すると同時に、地を蹴って飛び出す
「はぁっ!!」
がつん、と思い音が響き、Lv1が2体同時に爆砕する
「蹴技・龍虎翔炎!」
強烈に蹴り上げられた一体のアクマが炎上しながら他のアクマ達を巻き込んでいく
「砕けろっ!!」
巨大な火だるまと化したアクマ達に右の拳をたたき込む
「我流奥義――」
ぐん、と速度を増した火だるまが奥に鎮座しているLv3目掛けて突進する
「――闇夜炎舞!」
疾風の如き速度でアクマに激突したそれは、耳が割れるほどの轟音と共に爆発した
「はぁ、はぁ……やった、か?」
着地と共に顔を上げ、敵の状態を確かめる
「――!」
まさか、と思わずこぼしかけた言葉は喉の奥に引っ込んだ
「ありえないって……」
絶句するの瞳に映ったのは、Lv3アクマの姿
それは、身体の3分の1をぽっかりと失っておりながら、表情を微塵も崩さない異形の姿だった
「……ソコカ」
思わず息を呑んだ直後、地の底から響くような声には身をすくめる
徐々に近くなる足音と影を感じながら、いつでも飛び出せるように身構えておく
「……早くケリをつけないと、」
足音と共に少しずつ大きくなっていく音、
じゅわり、じゅわりと、何か液状に濡れたものが蠢く音が、の耳に響く
「予想はしていたけど……思ったより再生速度が速いな……」
一か八か――
一瞬の頭は思考に入って、
「――やる、か」
3秒とたたない内に答えを出し、再び地を蹴った
「こっちだ!」
道の影から飛び出し、敵の斜め前に躍り出る
「ヨクモ……ヤッテクレタナ」
「再生が終わる前に――お前を破壊する!」
ざっ、と高く飛び上がり、両の脚に力を集中する
「形作られし悪にまやかしの鉄槌を――」
小さく呟き、イノセンスに守られた脚をアクマ目掛けて突き出し、
「蹴技――月牙双狼!」
その装甲を深く貫いた
――――はずだった
「なっ――」
再生しかかっていた部分に到達した瞬間、アクマの細胞の再生に片足が巻き込まれてしまっていた
「死ネ……エクソシスト」
抗えば抗うほど飲み込まれていく身体
拉致があかないと感じたは、強攻策に出ることにした
「生きて出られるなら……脚の一本くらい……!」
かろうじて自由なもう片方の脚を、アクマ目掛けて思い切り突き出す
「はぁっ!」
ミシ、と骨の軋む嫌な音がして、蹴りの反動での身体が放り出される
「っ――がっ!」
石膏の壁に叩きつけられ、視界が歪む
「ぐっ……ぁ……」
激痛と疲労で頭も体も動かない
もう、終わりか――
霞んでいく景色を少しでも長く見て、
一分一秒でも長く生きていられるよう願いながら、
は白んでいく意識に全てを預けた
ユウ……
微睡みの中、一人の男を想う
初めてあったのは、自分が入団したすぐ後
昔から無愛想でクールな男だったけれど、
任務で一緒になり、互いのことを知ってからはそれとなくつきあいをしてきた
戦うことの意味、生きる目的、エクソシストの在り方
二人の考えはよく似ていたから
ユウは強い男だ
だから、自分も強くあろうと決めた
何者にも負けない強さと、絶対に折れない精神(こころ)
少しでもユウの隣に立っているために
ユウと名前で呼び合っていられるように
彼が、名前で呼ぶことを許してくれたのは、強い女だったから
「――いつまで寝てる。さっさと起きろ」
幻聴だろうか、
求めていた声が間近に響き、は閉じかけた意識を瞼と共にゆっくりと開く
「……ユ……ウ……?」
「俺はこんな弱い奴に名を呼ばれる覚えはない」
「あ……」
起きあがろうと腕をのばしかけて、
「さっさと立て、邪魔だ」
ぐい、と強い力で引っ張られた
「ユウ……――っ!」
立ち上がった瞬間、ずきりと脚に痛みが走る
「……脚か」
「さっき無茶したから……多分折れてると思う」
「だったらその辺に――「逃げない」
言いかけたユウの言葉を遮り、はきっぱりと答える
「私は逃げない。イノセンスの第三開放で動かせる」
命と引き替えにもなりかねない選択をする意を、はきっぱりと表した
「使える力惜しんで死んだら意味無いでしょ?
――大丈夫、私は死なないわ」
「根拠はあるのか」
珍しく問いかけてきたユウに、にっこり微笑み答える
「神田ユウが認めた女が、そんな簡単に死ぬはず無いでしょう?」
「……知るか!」
根拠にされ、照れたようにそっぽを向き、ユウは愛刀の六幻を構え直す
も痛む脚を叱咤し、立ち上がる
「さてと……じゃあさっさと片付けて、ジェリーのお蕎麦でも食べようか」
「勝手にしろ」
相変わらずの応答にくすりと笑みをこぼし、イノセンスを発動させる
「さあ――いこうか」
感覚の無くなった脚で地を蹴り、
焼け焦げたようにボロボロな拳で殴りかかる
大丈夫、きっと負けない
信頼できる仲間が、心を許しあった友がそこにはいるから――
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あとがき
メリークリスマスですね。一日遅れましたが。
初挑戦です。神田です。最近Dグレブームなんです
勝手にLv3出てきましたが……何か弱いな;;
ヒロインの戦闘シーンに力を入れすぎて神田が最後にしか出てこないというOTL
でも書いていて楽しい戦闘シーンでした
ちなみにヒロインのイノセンスはグローブとブーツになる装備型です。武道家ヒロイン
2007 12 26 水無月