りゅうのひげ――変わらぬ想い
「、先に逃げなさい!」
「大佐?!」
「あなたの力なら一人でもここから抜け出せます。
グランコクマに戻り、陛下にこの手紙を見せてください」
爆撃に激動する中、艦内の片隅でジェイドはそう指示した
走り書きの羊皮紙を差し出されるが、は反射的に拒んでしまう
「でも、大佐は……!」
「もう一つ、あなたには調べてほしいことがあります
とにかく陛下の元へ。急いでください」
「そんな……大佐や導師様をおいて逃げるな――」
はた、との言葉が止まる
「――あなたのことを、」
そう、と頬に添えられた手
「あなたのことを信頼しているからこそ、頼みたいのです」
グローブ越しにジェイドの温度が伝わってくる
「大……佐……」
真紅の瞳に見つめられ、息をするのを忘れてしまう
「私の方は大丈夫です。
あなたは、自分の上司を信頼できませんか?」
暫し黙ったまま、は首を横に振った
「こういう時の大佐は……一番信頼できます」
ぽつりと呟くように良い、くるりと踵を返す
「生きて、戻ってきてください」
切実に願った言葉には、ほんの少し涙が混じっていた
「――当然です」
いつものジェイドの言葉を背に、はタルタロスを抜け出した
「もう、一月たつかな……」
はぁ、とため息をつき、目の前におかれた分厚い書物のページをめくる
タルタロスを抜け出してから一月あまり
無事グランコクマへと戻ったは、皇帝であるピオニーにタルタロスの一件を簡潔に説明した
そしてジェイドの指示通り、書庫での調べものに明け暮れる日々を過ごしていた
「大佐……まだ戻らないのかな」
その書物から書き出した資料をまとめ、もう一度深くため息をつく
「――・副官はおられますか?」
兵士の声には手を止める
「何でしょうか?」
「フリングス将軍がお呼びです」
「わかりました。すぐに伺います」
机に積まれた本を戻し、は書庫を後にした
「何のご用でしょうか、フリングス将軍」
「たった今、兵から報告がありました」
「報告?」
「吉報ですよ。――カーティス大佐が戻られました」
「え……」
一瞬、時間が止まる
「フリングス将軍、それって……」
「テオルの森から歩いてこられたそうです
街の入り口にいるそうなので、迎えを命じられました」
「私もご一緒して良いですか?」
「そのつもりで声をかけました」
「あ……ありがとうございます!」
深く頭を下げ、は足早に街の入り口へと向かった
「――大佐!」
呼ぶよりも早く駆け寄り、はその手を取る
「……」
珍しく驚きを露わにし言葉のでないジェイドの代わりに、後ろに控えていたイオンが声をかけた
「無事だったんですね、」
「はい。イオン様も、アニスも、みなさんよくご無事で……」
心底嬉しそうに微笑ったの白い頬に、涙が一筋流れる
「あ……やだ、私……」
手で目元を隠し、は呟くようにもらす
「よかった……私、すごく心配して……」
「――、」
ぽん、と、うつむくの頭に手を乗せ、今まで黙っていたジェイドがその名を呼ぶ
「出迎え、ご苦労様です」
「……いえ。副官として、当然のことです」
手のひらで強引に涙を拭い、はっきりとした言葉では答える
「報告は後で聞きます
至急、宿を一部屋取ってください」
「ガイ――彼に駆けられた呪術を解呪するので、どうかお願いします」
「了解しました」
ぺこりと頭を下げ、はイオンたちを宿へ連れて行く
その去り際に、
「あと――おかえりなさい、大佐」
にこりと微笑み、ジェイドに向けて小さく言った
その夜――
「――、少しいいですか?」
私室で資料の整理をしているの耳にノックの音が届く
「大佐?」
扉を開けると、上衣を片手にジェイドが立っていた
「例の件について聞きたいことがありまして」
「わかりました。――どうぞ、あがってください」
リビングに通し、は慣れた手つきで紅茶を用意する
「どうぞ」
「ありがとうございます」
一つしかないソファに、ジェイドの隣に腰を下ろし、はテーブルに広げた資料を手に取る
「開放されている書庫のものはすべて調べました
あとは皇帝の許可を得なければ……」
「そうですか……
とりあえず、ここにある資料だけでも良いので解説をお願いします」
「わかりました。まずは――……」
「……――なるほど。そういうことですか
つまりここで……」
資料を手に、ジェイドは思索する
何十分、何時間たったかもわからなくなるほど二人は熱中していた
「――?」
そんな中、ふと自分にかかる重みに目を向ける
「おやおや……」
自分の隣で解説をしていたは、いつのまにか眠ってしまっていた
「もうこんな時間でしたか」
時計に目をやり、ジェイドは困ったような、そうでもないようなため息をつく
「心配を、かけましたね……」
の髪を梳くように撫でてやると、くすぐったそうに身じろぎした
漆黒の髪の間から、彼女の白い頬が見え隠れする
「次に休みがきたら、二人でどこかに出掛けたいですね」
紅茶の甘い香りが、冷たい夜の部屋を包み込む
そっと囁いたジェイドの表情は、普段は見られないほど穏やかだった
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あとがき
初のジェイドさん夢。TOAフィーバーです
口調がイマイチわからなくて悪戦苦闘しました;;
タルタロスのシーンを勝手に改造して作りましたが……なんかタイトルと全然関係ないですねOTL
あと、今思うとこのタイトルの「りゅうのひげ」って花なんですよね。
一応写真は見ましたが……いや、すごい名前ですよね。
2007 12 1 水無月