みせばや――静寂を愛する
「ん……いい風」
建物の後になっているところに、腰かけ、夜の風を全身で受ける。
アクゼリュスへの親善大使として任命されたルークとその一行は、六神将に攫われたイオンを追ってザオ砂漠にやってきた
『どんなに急いでも、この砂漠を越えるのには一日以上かかります』
『ケセドニアに行くにせよ、イオン様を追うにせよ、途中オアシスで一泊する必要がありますね』
ジェイドとの提案は満場一致(約一名は不満そうだったが)で賛成となり、今夜はオアシスで一泊することになった。
月が東へと傾き始めた頃、は一人皆の元を離れ、外にでていた
闇色を一面に溶かしたような夜空に、黄金に光る月が唯一つ、浮かんでいる
「んんっと……あ、あった」
懐からラベルの貼られていない透明な瓶を取り出し、
中に入っている琥珀色の液体――バチカル地方の伝統の地酒である――を、一口、口へ流し込む
「ぷはー。美味しー」
一口飲んでは月を見上げ、暫し目を閉じ、また酒を一口、月を見上げる
至極ゆっくりとした動作でそれらを繰り返す。
「――眠れないのか?」
三度、それを繰り返したかという頃、背後からかけられた声に振り向く。
夜の闇にもはっきりと写る蜂蜜色の髪が視界に入ってきた
「ガイ……?」
どうしたの、と言外に訪ねると、
「ふと目が覚めたら、隣に君がいなくてね。気になって探しにきたんだ」
ちらりとの持つ酒瓶を見やり、苦笑しながらガイは答える
「あまり寝てないようだが、大丈夫か?」
「大丈夫。心配してくれてありがとう」
唇を笑みづくり、はやんわりとした口調で答える
「それに、こんなに綺麗な月、滅多に見られないでしょう?
月見酒も、なかなかいいと思わない?」
「そうだな」
頷き、ガイはの隣に、人一人分の間隔をあけて腰掛ける
「貴方も飲む?」
「いや、遠慮するよ。あまり強くないんだ」
「そうなの?」
ああ、と苦笑しながらガイは頷く
「――しかし、貴方も大変だな」
「あー、まぁいろいろとな」
「あのルーク坊ちゃんときたら、なかなか筋金入りの……っと、使用人の前で主人の悪口は言えないか」
「いや、気にすんな。……って、使用人の俺が言うのも変だけどな」
はは、と困ったような笑みをこぼし、ガイは続ける
「ルークも、悪気があってあんなことを言ってるワケじゃないんだ」
「そりゃあね。悪気があったら……そうだな、私はあの坊ちゃんをシメて、適当に逃げてるよ」
はくすりと笑みをこぼす
「まぁ、あいつなりにこれだと思うことをやってるんだよ」
「思いっきり空回りだけどね」
は口元を隠すが、くすくすと笑みをこぼしているのが隠し切れていない
「手厳しいな、は」
「ごめんなさい」
「けど、仕方ないって言えばそうなんだよな」
「長いこと……7年だっけ、お屋敷に閉じこめられていたんでしょう?」
ガイは無言で頷く
「……そうね。いい月だし、久しぶりに歌おうかしら」
何度か酒を口にした後、不意にがつぶやく
「歌う?」
ガイが聞き返すと、はええ、と微笑んで頷く
「以前……といっても、何年も前だけど。
歌を歌って暮らしていたの」
「へぇ……どんな歌なんだ?」
「何でも」
くすりとは悪戯気にほほえむ
「自分の思うままに、その場で即興で歌を作ったりしてるの」
「すごいな」
「元々はただの趣味だけどね」
そういってはす、と瞳を閉じる
暫し沈黙が流れて――……
消えないで
消さないで
光を恐れないで
自分の影に囚われないで
たった一粒の光でも追いかけて
信じて走ればいつか迷路を抜け出せる
その先に広がる空がきっと自分の答えになるから
何度倒れても傍にいる
一人だけでも支えになるから
独りだけで戦う意味を見失わないで
透明な旋律が、小さく静かに響く
高すぎず、低すぎず、早すぎず、遅すぎない
不思議と惹きつけられる魅力を持った歌声
「良い歌だな」
「たった今即興で作ったんだけれどね」
くすりと笑みをこぼし、は再び酒を飲む
「今日は、風が静かね……」
「あぁ、そうだな」
「風だけじゃない。
わずかな草も、必死に隠れる動物たちも、みんな息を殺して朝を待っている
一分一秒でも長く光を浴びたいから、そのためにただじっと耐えている
本能の赴くままに……私たち人間が忘れてしまった生き方ね」
「詩人だな、は」
「どうも」
酔っているのか、にこにこと笑みをこぼしてばかりの
再び、沈黙が流れる
けれどそれはひどく優しくて、穏やかなものだった
「――――?」
ふと、ガイは肩の方に重みを感じた
「っ……?!」
いつの間にか眠ってしまったが、自分に寄りかかり肩に頭を預けている
反射的に離れようとしたが、が倒れてしまう、と何とか踏みとどまる
「ふう……」
呼吸を整え、改めて、を見る
くせっ気のない色素の薄い髪は肩の位置で束ねられており、
長い前髪が目元に薄くかかっている
その薄い色合いは彼女の白い肌によくあっていた
「綺麗だな……」
思わずため息がこぼれそうな、神秘的な雰囲気
「ん……」
眠るには少しきつい体勢で、が身じろぎする
「っと……危ねえな」
苦笑混じりに呟きガイは、
「少しくらいなら……いけるか?」
軽く息を吸い、自分を落ち着かせて、
「・・・――」
震える腕を、そっとの肩に回した
「――ふぅ、」
きゅ、と少しだけ肩を寄せれば、より近くに彼女の息づかいを感じる
腕の震えが伝わらないよう、ぐ、と力を込めて、身じろぎする身体を支える
いつまでこの腕が保つか――
ガイは天を仰ぎ、大きくため息をついた
ふわりと風が吹き、二人の髪を優しく揺らす
月明かりの下で、金紗に解け合った色が緩やかに流れていった
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あとがき
初のTOA。ガイ様華麗に参上しました(蹴
時間かけまくった割に消化不良OTL
最後についてはふれないでください。
女性恐怖症?美味しいのソレ?ってなかんじで
次はジェイドさん書きたいなと思ってます。
2007 11 26 水無月