ふうせんかずら――あなたと飛び立ちたい
『今度は、私も連れて行って』
もう一年も経つのか、と内心呟きながらバルフレアはラバナスタの町を歩く
相変わらず人の多い賑やかな町は陰鬱な空気を吹き飛ばしてくれる
バハムートが堕ち、ヴェインとの戦いが終わってから一年
体の傷も癒え、相方フランの調子も戻り、漸く準備が整ったバルフレアはこの日、ヴァンに預けて置いたシュトラールを引き取りに行くことにしていた。
だが、彼はあくまで”空賊”
ヴァン達には連絡せず、こっそりもらっていくつもりでいた
「一年か……随分と変わったもんだな」
特に意味も込めず呟く。
それは、変わったことがたくさんあったから。
時代は変わる
街は変わる
人も変わっていく
「………ここか」
街の一角にある階段を下りていく
コツ、コツ、とブーツの音が静かに響く
そして、一番奥にある扉を開く
薄暗く広い部屋がそこには広がっていて――――
「――上出来だ」
自然、笑みを零す
曲線を用いた独特のフォルム
きっちりと磨かれたボディには傷一つない
中へはいると、きちんと整備されており、丁寧に掃除もしてあった
「遅かったのね、バルフレア」
機内から出ると、どこからともなく声がした
「また、寄り道していたの?」
先に待っていた相棒は部屋の隅で静かに立っていた
「……まぁな」
「それで、お目当てのモノは見つかったの?」
「残念ながら」
困ったように肩を竦めてみせる
「あれからもう一年と半年だ。期待なんてしてねえよ」
「でも、気にはなっているわ」
でなければ探したりしないでしょう?、とフランはくすりと笑む
「そうだな……」
『私も連れてって』
そんなことを言った女に出逢ったのは、ヴァン達と出会う半年ほど前のこと。
『世界中のことを知りたいの』
その女は、学者になりたいと言っていた
『バルフレアは、遺跡とかの奥にも行くんでしょう?
私はそういうところに行く術を持たないから』
亜麻色の髪を肩まで伸ばし、細いフレームの眼鏡をかけていた
物資調達にいった先でバイトをしていたその女は、話をするとまるで子供のようにはしゃいだ
『人から聞くだけじゃダメなの。
自分の目で見て、自分の耳で聞いて、自分の肌で感じたこと。
ありのままの姿を私は心の中に刻んでおきたいの
――だからお願い、連れて行って』
真っ直ぐ見つめるライラック色の瞳
あの真剣な表情は未だに忘れられないでいる
だが、彼女を連れて行くわけには行かなかった
知識の豊富さはかなりのものだったが、戦闘経験はゼロ。
ある程度魔法は使えるようだが、それでも結局の所足手まといでしかなかった
なのでその時は適当な言葉で彼女を交し、特に気にもとめず町を後にした。
「あんなに必死な顔してたくせに……な」
ふ、と自嘲気味に笑む
一年と半年。ラバナスタによる度に彼女の姿を探した
無性に彼女の声が聞きたかった
彼女の笑顔をもう一度見たくなった
『バルフレアって言うのね。
……私?私は――』
『空賊って野蛮な印象だけど……
バルフレアを見てると、凄く羨ましく思えるの。何でだろ?』
『バルフレアって話し上手ね。
ずっと一緒にいて飽きないもの。
ねぇ、もっと色んな話し聞かせて?』
「それとも、今頃はとっくに何処かの空、か――?」
ダルマスカの空を思い浮かべ、彼女の――の横顔を重ねる
「……俺も、行くとするか」
良く映えるであろう亜麻色の髪を瞼の裏から消し、フランを促して愛機に乗り込む
そして――
「――何も言わずに行くつもりなの?」
背後からの声に、足を止めて振り返った
「お前は……」
薄く日焼けした肌に項で束ねられた亜麻色の髪
細いフレームの奥から覗く、ライラック色の瞳
「今度は……私も連れて行って」
真剣な表情は一年前と変わらない
「私には、まだ知らない世界がたくさんある
それを知りたいの」
必死な言葉も
「私は世界一の学者になりたい」
一途な、その夢も。
何もかもが懐かしく感じる
「……変わらねえな、は」
「そんなことないわ。一年半もたってるし……
少なくとも、もうあんな言葉じゃ騙されない」
「……そうか」
凛とした声には強い意志が感じられる
「ヴァン達から話を聞いたの。
何とか自分なりに頑張りたくて、ビュエルバとかの方まで行っていたから……
だから、ずっと会えなくて……」
会えなくて、の続きは聞かなかった
「バハムートのこととかも聞いて……
……ずっと、待ってた」
コツ、コツ、と静かに歩み寄ってくる
「ヴァンが言ってた。『バルフレアは必ずシュトラールを取りに来る』って。
だから、ずっと待っていたの」
足元から強い視線が向けられる
「私も連れて行って。
足手まといにしかならないかもしれないけれど、私だって自分なりに頑張ってきた。
戦う力も、覚悟も、全部出来てる。
それに、私は――」
す、と細められる瞳
「私は――貴方の傍にいたい」
真っ直ぐな、一途な思い
いつの間にか――自分が捕われていた
「――上等だ」
ふ、と笑みを零し、手を差し出す
「来い。――俺が、何処へでも連れてってやる」
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あとがき
不完全燃焼わーぉ(・3・)(謎
いろいろと突っ込み所満載のお題消化
ラバナスタくらい大きくなれば何度か立ち寄ったりもするかなーとか、
シュトラールを取りに行ったときのこととか考えてたらぼんやりと出来た話です
2007 10 9 水無月