まつよいぐさ――浴後の美人



   「ん〜、いいお湯だった」
   湯気を身に纏い、浴場から自室へと戻る
   白いバスローブの上からジャケットを羽織り、静かな廊下を歩く
   「バスルームはないけど……シャワーがあるだけマシか」
   言ってもどうしようもないのだが、一人だとついつい呟いてしまう



    特別な事情があり、私はレプリロイドのハンターベースで科学技術者として働いている
    自分が好きでやっていることの延長なので苦にはしていない
    でも、人間が一人というのは何かと不便なことが
    そう、例えばお風呂とか……

 
   「一応きちんとお湯は出るし……頼めば洗面用具も手にはいるけど……」
    私は唯一の人間。それはつまり、他はみんなレプリロイドということ
    元々レプリロイドの活動する施設なので、必要のない物はない
    食事の用意、水回り、着る物や普段使う生活用品などなど……


 
   「それでもせめてもう少しゆったりとした造りなら良かったのに……」
   ぽつりと呟きながら自室の前に来ると、見慣れた赤い影が立っていた
   「ゼロ……」
   「戻ってきたか、
   「どうかしたの?」
   「明日調査に行く地域について気になることがあってな」
   「わざわざ来てくれたの?連絡してくれれば私が行ったのに」
   「気にするな」
   「そう?まぁ取り敢えず入って。すぐに資料出すから」
   ぱぱっとロックを解除し、ゼロを部屋へ招き入れる
   「えっと……B3区でよかった?」
   「あぁ」
   素早く端末を操作し、モニターに情報を映し出す
   「――こんな感じかな」
   「充分だ。助かった」
   「そう。よかった」
   「すまないな。忙しいときに」
   「いいのよ。気にしないで」
   デスクから腰を上げ、テーブルの上のグラスに水を注ぐ
   「ところで、新しい武器の調子はどう?」
   「今のところ問題はない。後は慣れだな」
   「そう。……若干エネルギー消費が多くなるけど、あなた達なら大丈夫よね」
   ふ、とは柔らかく微笑む
   「それにしても、」
   ゼロは自分の腕からに視線を移し、
   「人は見かけによらないとはよく言った物だ。
   こんな武器を作ったのが……」
   意味ありげに唇の端を持ち上げた
   「……?」
   はその視線に自分の体を見下ろし、
   「――っ///どういう意味よ、それ」
   かぁっと赤面してゼロを睨み付けた
   は風呂上がりの姿のままだった  
   白い膝丈のバスローブに、濡れたまままとめられた髪、火照った身体
    普段のきりっとした姿からは想像もつかないだろう
   「思ったことを言っただけだ」
   おそらく、は言葉の意味をマイナスにとっているのだろう
   こんな女がレプリロイドのハンターベースで活躍しているなどと……
   鋭いの視線を意にも介さず、ゼロはゆっくりとに歩み寄る
   その様子を呆然とは見つめて――

   「あっ……」
   ゼロの腕に、しっかりと捕らえられた
   「……良い香りがするな」
   しっかりと、それでも優しくを抱きしめ、ゼロは呟く
   「えっ?」
   「それに……温かい」
   「あっ……お、お風呂上がりだから……」
   「そうか――」
   どこか夢見心地で呟き、そっとの髪をなでる
   濡れた髪の合間から覗く、白いうなじが色っぽい
   「本当に……目が離せないな、お前は」

    高性能のCPUを搭載したメカニックにも勝る凄腕の技術者
   その素顔はただの女性のそれであり、その中にこんな美しい一面も持っている


   「ちょ、ちょっと、ゼロ……」
   腕の中で真っ赤になり狼狽えるを見て楽しげに微笑い、
   愛おしそうにそっと濡れた髪に口づけを落とした


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   あとがき
  何やってんですかアンタ;
  ゼロさんを壊してみました(笑
  考えたらレプリロイドって食事もお風呂もいらないですよね。睡眠とエネルギーの補給は必要でも
  人間と混ぜて考えてみたら……こんな話が出来ました
  ちなみに、嗅覚あるのか?という質問はナシでおねがします;;
  一ヶ月も遅れてしまいましたが、楽しんでいただけたら幸いです
  2007 8 22  水無月