ダツラ――陶酔していく
   

   「ふぁ〜あ……」
    日曜日の昼下がり
   何もすることがないと、この時間はとても眠たくなる
   ショーケースに頬杖をつき、はぼんやりと空を見つめる
   「、ちゃんと店番しなよー」
   「そんなこと言ったってっさ〜暇なんだもん
   それに遊戯だってぼーっと座ってるだけじゃん」
   「……そりゃあ、お客さんこないしね」
   「そうそう。こんな日曜の真っ昼間にこんなちっちゃいお店に来る人なんていないって」
   「それでも仕方ないよ。ママは暫く帰ってこないし、じいちゃんも2週間は入院しなくちゃいけないし……」
   「あ〜あ……」
   はぁ、と心底つまらなそうにはため息をつく



    今、この店には二人しかいない
   お父さんは単身赴任でずっといなくて、お母さんは昨日からそのお父さんの所へ行っている
   おじいちゃんは……先日ギックリ腰になってしまい、それが思いの外酷くて入院している
    なので今はと遊戯の二人……



   「あ、そういえば……
   ねぇ遊戯、えっと……もう一人の、遊戯は今何してるの?」


    ――否、正確には“もう一人の遊戯”を含めた三人しかいないのだった


   「もう一人の僕かい?
   今は千年パズルの心の部屋で休んでるよ」
   「ふーん……そっか」
   いろいろと積み重なっていた面倒ごとも終わり、ゆったりとした日々が続いていた
   それはもう一人の遊戯も同じだろう
   「あ、そうだ」
   ふと、は思いつく
   「遊戯、ちょっと変わってみてくれない?」
   「えっ?」
   「いいからいいから」
   「う、うん……ちょっと待ってて」
   す、と遊戯が瞳を閉じると、首から下がっている千年パズルが静かに光を放ち出す
   そして――

   「――呼んだか?」
   クールで大胆不敵な裏の人格……“もう一人の遊戯”がそこには立っていた
   「や、遊戯。久しぶり」
   「久しぶりって……毎日顔あわせてるだろ」
   「そりゃあ見える以上はね。でもこうやってちゃんと出て会うのは久しぶりじゃない?」
   「そうだな……で、何か用なのか?」
   「んー、特別これといった用事はないけど、ね」
   「?」
   「たまにはアナタと店番してみたいなー、って思って
   ……もしかして、嫌?」
   「そんなことはない。別に構わないぜ」
   「そっか」
   くす、と思わず笑みをこぼすと 遊戯は訝しげに眉をつり上げた
   「何が可笑しいんだ?」
   「ううん、可笑しいんじゃなくて、ちょっと嬉しくて」
   「嬉しい?」
   「うん。
   ほら、この間……アメリカで……いろいろ、あったじゃない?
   なのに遊戯、私たちの分まで頑張ってくれて……
   だからちょっと心配してたんだけど……元気そうで良かった」
   「気にしなくて良い。それに、頑張ったのは俺だけじゃないだろ?
   や杏子、本田くん、御伽にレベッカも……
   みんながいてくれたから最後までいけたんだ」
   「遊戯……」
   じんわりと厚くなる胸に言葉を紡ごうとして――


    Plelelelele……


   それは無機質な着信音によって遮られた


   「ゴ、ゴメン、メールだ」
   慌ててポケットから携帯をとりだし届いたメールを確認する
   「あ……モクバくんからだ」
   「モクバ?アイツとメールをやりとりをしているのか?」
   「ん、まぁね。瀬人には内緒だけど」
   「そうなのか?」
   「うん。
   だって……瀬人も、仲間とかじゃないけど……すばらしいデュエリストじゃない
   神のカードにも、名もなき竜にも選ばれたし。
   でも瀬人ってプライド高いでしょ?だから一番身近なモクバくんにお願いしておいたの
   何かあったら連絡してねって」
   「そうか……それで、何て書いてあるんだ?」
   「えっとね……今日この後話したいことがあるんだって。あ、瀬人がね」
   「海馬が?」
   「うん。それで、なるべく円滑に進めたいから、お店の方にいてって」
   「まぁ……いいだろ」
   「そうだね。どうせ今日は一日店番なんだし」
   「で、海馬たちはいつ頃くるんだ?」
   「んっとね、……後一時間くらいって」
   「そうか」
   ぱたん、と畳んだ携帯をしまい、手近にあったボールペンで手の甲にメモをした
   「さーてと……時間まで何しようかな」
   「この様子なら休みにする必要もなさそうだしな」
   「うん、そだね」
   こくりと頷き、遊戯に向き直る
   「それにしても……遊戯、大人になったよね」
   「どういう意味だ?」
   問い返した遊戯はまたも訝しげな表情をしている
   「だって、モクバくんのメールとか……瀬人の話とか……
   すんなり受け入れるなんてね」
   にっこりと笑い、はまっすぐ遊戯を見つめる
   「っ……///」
   頬を赤らめ狼狽える遊戯にはもう一度くす、と笑い
   「どんどんカッコよくなってく遊戯……好きだな」
   どこか寂しげに呟いた
   「――」
    一度目を伏せ、遊戯はの肩を掴む
   「遊戯?」
   そのままぐっと抱き寄せ、自分の膝に乗せるような体制になる
   「あっ……ちょ、遊「
   言葉を遮り、頬に手を添えれば瞬間揺らぐ瞳
   「キス……してもいいか」
   「わ、わざわざ訊くなんて……珍しいね」
   「たまには、な。――それで?」
   「え?」
   「しても、いいか?」
   「……ん、」
   小さく漏らすような返事で、は静かに目を伏せる


    近くなる距離
   ゆっくりと、確実に増していく体温(おんど)と鼓動(リズム)
   互いにと息がかかるほど近くなって、唇が重なる――



    瞬間、
   「遊戯―、―、いるかー?」
   それは無邪気な少年の声と、扉の軋む音で遮られた


   「も、モクバくん?!」
   「遊戯、、邪魔をするぞ」
   「海馬?!」
   先程連絡のあった来客の登場に、遊戯とは慌てて離れ、間をとった
   周囲の変化には賢い二人だが、音がするまで全く気付かなかった
   「……何やってるんだ、お前ら?」
   「な、何でもないよ!
   そ、それより、早かったのね、モクバくん」
   「いや、そんなことないぜ。少し遅れたくらいだ。なぁ、兄様」
   「あぁ。少し会議が長引いてな。
   貴様ごときとの時間に遅れても支障はないだろうが……」
   「そ、そうね。別に気にしてないし……ね、ねぇ、遊戯?」
   自分で話をつなげなくなってきたは、無理矢理遊戯にバトンを渡した
   「あ、あぁ。そうだな
   そ、それより海馬、話って何だ?」
   怪しくないとは言い難い二人の雰囲気に瀬人とモクバは顔を見合わせる
   「来月我が社の主催するデュエルの大会がある。
   16歳以下……ジュニア大会だ」
   「そう言えば、ネットではニュースになってるね」
   「この大会では優勝者、並びに準優勝者に賞品があるのだが……
   それだけでは子供たちを引きつける要素には欠ける」
   「賞品ってどんな?」
   「海馬ランドの無期限パスポート……並びにKC特製デュエルディスクだ」
   「パスポートに特製ディスク……魅力的だと思うけど……
   子供だったら何に憧れるのかしら……」
   「憧れる……?」
   の呟きに、遊戯の頭の中でライン繋がる
   「そうだ遊戯。貴様にはこの大会の優勝者とデュエルしてもらう
   仮にもこの俺を倒したデュエルキングなのだ。憧れの念を抱く子供も少なくあるまい」
   「海馬……」
   「よかったじゃない遊戯。是非出させてもらいましょうよ」
   「あぁ。そうだな
   海馬、その申し出喜んで受けさせてもらうぜ」
   「そうか」
   「ねぇ遊戯、その日見に行っても良い?」
   楽しそうに訊ねる
   すると、海馬が遊戯からに視線を移して答えた
   「一つ言い忘れたが、樹里、お前にも出場してもらう」
   「えっ?」
   「どういう事だ、海馬」
   「今回の大会はタッグデュエルの大会だ。
   そのため遊戯、貴様にもパートナーが必要となる」
   「それで……私?」
   「そういうことだ」
   「でも、私なんかじゃなくても……ほら、克也とかさ、」
   「……ふん、何故この俺があの凡骨に頼み事をせねばならんのだ」
   「瀬人、アンタって男は……」
   「いいじゃないか、
   「遊戯」
   「お前の強さは俺が知っている。お前とならどんな相手でも勝てる」
   「そんな……買いかぶりすぎだって」
   照れたように笑うの肩を抱き、遊戯は海馬に向き直る
   「俺とのタッグで優勝者とのエキシビジョンマッチに臨む。問題はないな」
   「あぁ」
   「私はともかく、遊戯は超有名人だしね。きっと人が集まるよ」
   「当然だ」
   一言返し、海馬はくるりと踵を返す
   「では遊戯、。大会で待っている」 
   「うん。わかった」
   ひらひらと手を振り二人を見送る
   モクバが一瞬振り向いてウインクしていった
   「楽しみだね。大会」
   「あぁ」
   「それにしても……ビックリしたね」
   「あ、あぁ。そうだな」
   海馬たちがくる前のことを思い出し、二人は赤面する


   「……ねぇ、遊戯」
   しばし間が空いて、不意にが口を開く
   「なん――」
   答えようとした言葉はかき消える
   頬にふれる柔らかい感触
   「っ、?!」
   「ビックリした?普段は遊戯ばっかりだからちょっと仕返し」
   くすっ、と楽しそうには微笑う
   遊戯は一瞬あっけにとられていたが、
   「ふふん――後悔するなよ?」
   不適な笑みを浮かべると、を抱き寄せ唇を奪った
   「っん……」
   再び戻る熱と鼓動
   自分たちの世界に陶酔していく



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  あとがき
 遊戯王小説……やっちゃいました;
 特にコレといった理由はないんですけどね。何だか王サマが無性に格好良く見えて。
 何気に社長は壊したらおもしろいキャラになるだろうなー。と思ってみたり
 こんなのですがおもしろいと思ったらコメントしてやって下さい
 2007 8 22  水無月