「――――」
ぱらり、と本のページをめくる。
カップの紅茶からは湯気が立ち上り、上品な香りが部屋を包む。
窓の外では子どもが白い雪を浴びてはしゃいだり、高そうな服を着た貴婦人がホテルに出入りしている。
世界が変わろうというのに、この街は相変わらずにぎやかだ。
窓越しに聞こえる人々の声をBGMに、は一人読書を楽しんでいた。
シャンデリアの明かりが包む、切り取られた空間。
戦いの日々を忘れさせる、静かな憩いの時間は――
――コンコン、
一つの、ノックによって遮られた。
「はい、どうぞ」
顔を上げて、ドアの向こうに声をかける。
言ってから、相手の確認を忘れたと思い出すが、手元に武器の存在を確認し、まぁ大丈夫だろうと結論付ける。
「ー?」
些か戦闘モードに入りかけた思考回路は、返ってきた声で切り替えられた。
声の主は、アニスだ。
「両手がふさがっちゃってるの。ドア開けて〜」
困ったような声に、は本を閉じて立ち上がる。
――ついでに、テーブルの上のキャンディをポケットに突っ込んだ。
「!トリックオアトリー「はい、コレ」
ドアを開けて、相手が言い終わる前にキャンディを差し出す。
目の前には――悪魔の格好をしたアニスと、なぜか魔女の格好をしたナタリアも立っていた。
「うあ?!先読みぃ?!」
いつもと変わらぬクールな対応に、アニスは面食らったように一歩退いた。
「知っていましたの?私たちが来ることを」
「声、聞こえてたからね。ずいぶんと楽しそうに服選んでたな」
「むぅー。やっぱは固いなー」
「ふふ。驚く姿というのも、想像できませんわね」
「まぁいいや。、ありがとう」
もらったキャンディを小さなかご――これまたご丁寧に、かぼちゃの飾りがあしらってある――に入れて、
「次はどこに行こうか?」
アニスは次のターゲットを考え始める
「ルークは最後のほうが面白そうだね。ティアとノエルはもう行ったし……ガイにしようか?」
「そうですわね。
、ガイはどちらかご存知?」
「……いや、私はずっと本を読んでいたからな。
あまり物音もしなかったし、部屋にでもいるんじゃないか?」
「行ってみましょう。アニス」
「そだね。
、ぜーったい、言っちゃダメだからね!」
「はいはい」
ひらひらと手を振って、二人を見送る。
「ハロウィン、か――」
子どもたちが楽しむための――決して、男女の戯れに使われるような行事ではないのに、
「――……」
食指が動いた、というのはこういうことだろうか。
ため息を一つ。キャンディを一つつまんで、は部屋を後にした。
コンコン、と軽くドアをノックする。
「ん?どちらさんだ?」
「……私だけど」
聞こえるギリギリの声で答えると、程なくしてドアが開いた。
「?どうしたんだ?」
「ちょっとね。今一人?」
「ああ。さっきまでルークがいたけどな」
「そう……入っていい?」
「どうぞ」
す、と丁寧な動作で招き入れられ、こういうところは貴族っぽいなどと思ってしまう。
「で、どうしたんだい?が訊ねてくるなんて珍しいな」
「そう?」
「そうだろ。いつも俺が行ってるじゃないか」
苦笑交じりに応えて、ガイもの隣に腰掛ける。
「……アニスとナタリア、来なかった?」
「? いや、見てないが。探してるのか?」
「違うけど……まあ、それならいいか」
そういって、ポケットに忍ばせていたキャンディを取り出す。
「はい、あげる」
「?」
「いいから受け取って」
ガイは首を傾げながらもそれを受け取った。
真紅の包み紙が、シャンデリアの淡い明かりを照らし返す。
「これ、街で配ってたやつか?
……そういや今日はハロウィンだったな」
「……そうね」
小さく息を吐いて、はじっとガイの顔を見つめる。
まっすぐに瞳を捕らえて、口を開いた。
「ガイ――……trick or treat?」
蒼の瞳が大きく見開かれる。
「え?あ、?」
「だから、trick or treat?」
「ドッキリ……とかじゃないよな?」
「そんなわけないって」
「……だよな。
でも俺、甘いものなんて持ってないぞ」
「それ」
害の手のひらにある、真紅の珠を指さして、
「お菓子、じゃないの?」
少し挑発的に言ってみる。
意味を察したのか、ガイは特に意識せず、そのままキャンディを差し出そうとした。
「そうじゃなくて、」
「え?」
「普通、すぎる。
わざわざ渡した意味がない」
「……?」
「その、たまには……恋人らしいこと、したい、と、思って……」
言いながら、すごく恥ずかしくて、顔が火照るのを感じた。
「恋人らしく、渡してくれないか?ほら、食べさせてくれるとか……」
しどろもどろになるを見て、思わずガイは笑みを漏らす。
「すごく可愛い。」
「っ……!」
「恋人らしく、か……」
じゃあ、とガイはおもむろにキャンディの包みを開いて、口に放り込む。
それからそっとの肩を抱き寄せて、唇を重ねた。
「んっ……」
ころ、と口の中に甘い塊が転がり込む。
それでもまだ唇は離れなくて、
しがみつくようにはガイの背に腕を回した。
切り取られた、二人だけの空間。
ハロウィンの夜が、静かに更けていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
さすがに一週間はまずいと思ってがんばったのにNE!
ラブラブですね。こんなのガイ様じゃない。
アニスとナタリアはどうしたのかというと、
1:ガイを究極に驚かそうとネタを仕込みにいった
2:普通にヒロインちゃんに気を遣ってあげた。
お好きなほうをどうぞ。
ツンデレ目指して玉砕しましたorz
前もこんなことやった気がする。
2009 11 8 水無月