「銀さん、早く早く!」
からん、と石畳をたたく下駄の音が響く
「無駄に走ると転ぶぞ」
「や、大丈夫だって
それより早く!おいてくよ!」
の動きに合わせて、橙色の浴衣がひらめく
夜の人混みの中でその姿は酷く際だっていた



「んー、夏はやっぱりかき氷だねぇ」
『氷』『納涼』とプリントされたカップにもっさりと盛られたかき氷
祭りの定番をしゃくしゃくと食べながらは隣の男を見上げる
「そーだな。いちご牛乳うめーな」
銀時はいつもとかわらぬ気怠げな様子で生返事を返す
「それ通りのコンビニで買ったやつじゃん。
折角お祭りにきたのに風流ってもんがないのー?」
「んなこといったってよー、今時の祭り自体に風流もクソもねーだろーが」
「うっわ。根本からぶった斬ったよ」
でもさぁ、とは口を尖らせる
「今日が何の日か、ちゃんとわかってる?」
強く、一つの答えしか許すまいと
「――……あぁ」




『銀さん、お祭りに行かない?』
昼過ぎに買い物から戻ってきたは、一枚のチラシを見せた
『祭りだぁ?』
『この近くでやるんだって。花火も上がるみたいだし……
ね、一緒に行かない?』
『面倒だし今日は見たい番組あるから却下』
あっさりと切り捨てた銀時には一瞬脱力して、
『今日が何の日か、覚えてないの?』
荷物の整理もそっちのけで問いつめた
『……何かあったか?』
その返答に、の堪忍袋の緒が切れ――





「お前がウチに来た日。んでもって、俺と付き合い始めた日」
ほっぺたに貼られた湿布をなでながら銀時は答える
「そ。……てゆーか、あれで覚えてないとか言ったら両頬が白くなるよ」
昼間の質問に答えられなかった銀時は、の鉄拳をモロに喰らい、湿布を貼って過ごすことになった
その後、に懇切丁寧に説明され、強制的に祭りへと繰り出すこととなった次第である
「まぁさ、付き合い始めた日なんてのは忘れてても許すよ。
けど、私が万屋に来た日くらい覚えててくれてると思ってたのに」
「わーった、わーった。俺が悪かったって言ってんだろ」
「まったく……」
ずず、と溶けてシロップとまざった氷をストローで飲む
隣では空になったいちご牛乳のパックを銀時がゴミ箱へ放り投げていた
 まぁ、いいか
は内心呟く
最近私用だ依頼だと昼夜を問わず忙しく、こうして二人でのんびり出来る時間は少なかったのだから
新八の方に簡単に事情は説明してあるので、邪魔も入らない
気合いを入れて浴衣を用意し、薄い化粧で飾ったと、ほっぺたに白い湿布を貼った銀時
なんともアンバランスだが、それでもはこの幸せな時間を噛み締めていた



「――あ、リンゴ飴あるよ!」
ぴ、と前方の屋台を指さす
「いろいろ種類あるっぽいね。ちょっと覗かない?」
くい、と銀時の着物の裾を引っ張り促す
観念したのか、銀時は頷いてに従った
「んー……どれにしようかな」
台の上に並ぶ色とりどりの果物には釘付けになる
定番のリンゴを始め、イチゴやブドウ、ミカンなどもある
「銀さんは何にする?」
「どれも同じじゃねーか。適当に選んでくれ」
「もう……ホント、風流のカケラもないのね」
じゃあ、と改めて物色し、イチゴとブドウを選ぶ
「まいど!」
代金を払って、二色の飴を受け取った刹那――


ひゅ――ん…………
空を裂くように一筋の光が打ち上がり、ぱぁんと音を立てて弾けた
綺麗にコーティングされた飴に、打ち上げられた花火の光が映る
「あ……」
はっとして、背後を振り向く
弾けた光の華は、が気づいたときには散り散りになって消えていった
「花火見逃しちゃった……」
しゅん、としおれるの肩を銀時がぽん、と叩く
「すぐに次が上がるだろうが。いちいち落ちこんでんじゃねえよ」
「第一発目を見るのが楽しいんじゃん」
「一発目も二発目も変わらんだろうが」
「気持ちの問題なの……はぁ、」
銀時にこの手の話しは無駄と諦め、イチゴ飴を渡す
と、銀時の背中越しに、次々と花火が打ち上がった
「わぁ……!」
感動するにつられ、銀時も背後へ目をやる
「綺麗ね」
「……そーだな」
立ち見する民衆に紛れ、二人も花火の打ち上がる空を見上げる


 夜空を彩る光の花は美しく、儚くて―― 
 不意に隣へ目をやると、ちょうど銀時と目があった


「あ――」
「……何だ?」
「ううん、なんでもない」
「そうか」
一泊間をおいて、銀時が切り出す
「次も、一緒に来るか」
「え?」
「来年も一緒に来るか?」
「――ん、」
嬉しそうにはにかむ表情が花火に照らされる
それは酷く綺麗で、けれど花火のように消えたりはしない強さを秘めていた



「来年は湿布ナシでね」
「……そう……だな」






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  あとがき
 2周年祝いです。わーい。
 友達に無理矢理リクエストを言わせて書きました(蹴
 いちご牛乳は譲れない(笑
 屋台の果物の飴って美味しいですよね。最近はいろいろと種類が増えていてびっくりしました
  2008 6 7   水無月