「諜報二十日目。標的に変化なし、っと……」
キリの良いところで尾行を止め、すぐに撤収する。
「あ、いたいた。せんぱーい!」
”待ち合わせ”にしている神社の前には、相手が立って待っていた。
人通りは少なくないが、背が高い人なので探すのに苦労はしない。
「よ、。」
「お待たせしてすみません。行きますか?」
「ああ、そうするか。」
短い会話を交わして、街の方へ歩いていく。
他愛のないやりとりをしながら、二人は小さな宿を訪ねた。
「んじゃ報告……っつっても、特に変化はなさそうだな。」
「そうですね……。現状特に変わった点は見られません。」
白紙の巻物を取り出し、は報告内容をまとめていく。
「不知火先輩の方はどうでした?」
「こっちも相変わらずだ。……ま、そう簡単に尻尾を出してくれる相手でもねえか。」
気怠そうに呟いて、ゲンマははあ、と溜め息をつく。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもねえ。飯にすっか。」
仲居に頼むと、すぐに夕食の膳が運ばれてきた。
半月あまりですっかり舌に慣れた料理ばかりだ。
「……あんみつ食べたいですね。あと甘栗甘のお団子とか。」
「女は甘いモン好きだな。」
「そんなことないですよ?
あ、アンコ先輩とかは好きですけど。
でも紅先輩やはお酒とかおつまみ系のほうが好きみたいですし。」
は他にも何人かピックアップしていく。
そしてふと、ゲンマに訊ねた。
「不知火先輩は、何か無性に食べたいものってありますか?」
一瞬、いくつかの好物が頭に浮かぶ。
どれも恋しい味だが、無性に食べたいわけではなく、
「……俺は酒酒屋の水割りだな。」
任務中なのでずっと飲んでいない、こちらのほうが欲しかった。
ゲンマの答えを聞いて、はああ、と頷く。
「先輩、お酒強いですよね。」
「そういうお前はどうなんだ?
最後まで付き合ったことねえけど、潰れてるのも見たことねえな。」
「私は普通ですよ。飲み会で楽しめる程度には飲めます。」
「潰れるとどうなるんだ?」
興味半分で聞いてみると、
「えっ?そ、それは……えっと……」
はピクン、と肩を強ばらせて動揺を露わにした。
意外といえば意外な反応に、好奇心が膨らむ。
「なったことないわけじゃねえだろ?」
「それは……まあ」
出来れば言いたくない、とは言葉を濁して抵抗する。
「えっと、その辺はぷらいばしーの保護ってことで……」
「諜報の忍前にしてプライバシーも何もあるか。
……と、言いたいところだが、明日も早いしな。ここらでカンベンしてやる。」
ぐい、と湯呑みの中を飲み干し、ゲンマは話を切り上げる。
「あ、はい。……おやすみなさい、不知火先輩」
「ああ、おやすみ」
それからさらに諜報活動を続けること一ヶ月――
「……ったく、手間かけさせやがって。」
「なんとか事前に防ぐことが出来ましたね。先輩のおかげですよ。」
「大変だったのはお前のほうだろ。……よくやったな。」
「あ、ありがとうございます。」
標的が尻尾を出し始めてからは事が迅速に進み、反乱を企てていた一味を捕らえることに成功した。
一通りの報告も終わり、ゲンマとには明日帰還命令が出ることになっている。
「さて……今日は羽を伸ばすとするか。」
「夕食、美味しいものでも食べに行きますか?」
確かこの街には地元の野菜を使った名物料理があると聞いたことがある。
「それも悪くねえが……あれ、どうだ?」
そう言ってゲンマは近くの張り紙を指す。
「豊作祈念のお祭り……あ、今日からですね。」
「折角だし、行ってみないか?」
「はい!」
一時間後に宿の前で待ち合わせをすることになった。
「先輩、お待たせしました。」
「んじゃ、行くか。」
夕方の街はすでにさまざまな屋台で賑わっている。
「わ……けっこう人多いですね。」
「はぐれるなよ?」
「大丈夫ですよ。……不知火先輩なら、すぐに見つけられますから。」
聞こえないようにポツリと付け足す。
「何か言ったか?」
「いえ、何でもないです。」
それから二人でのんびりと屋台を回って、祭りの雰囲気を堪能した。
一通り回ったところで、二人は宿へと戻ってきた。
明日は朝のうちに出発する予定になっている。
「楽しかったですね。不知火先輩」
「ん?ああ……」
「……先輩、どうかしたんですか?」
ゲンマは先ほどから何やら考え込んでいる。
「不知火せんぱ……「それ、止めないか」
心配する言葉は、突然遮られた。
「?」
「その不知火先輩っつー呼び方、止めにしないか。」
「えっと……嫌、でしたか?」
「そうじゃねえが……あんまり馴染みがねえんだよ。
俺の場合苗字の方がが呼びにくいしな。」
それに苗字だとどこか余所余所しい、とゲンマは付け加える。
「ええっと……それじゃあ……」
「ゲンマ。知らないわけじゃねえだろ」
「ぅ……」
はしばらく躊躇した後、
「……ゲ、ンマ……先輩」
ぽつりと、呟くように言った。
「先輩もいらねえけど……まあいいか。
これからはそう呼べよ。いいな?」
「は、はい」
こくん、と頷くと、ゲンマの大きな手がの頭を撫でた。
「んじゃ、帰るか」
「はい。えっと……ゲンマ先輩」
歩き出すゲンマの隣に並ぶ。
「帰ったら飲みにいくか」
「あ、はい。そうですね」
「どうせ二、三日は休みになるだろうからな。
たまには最後まで付き合えよ?」
「えっ?えーと……それは……」
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あとがき
一日遅れましたが、お誕生日おめでとうございます!
アニメでも漫画の外伝でもいいから上忍や特上をもっと活躍させてほしい。
そしたらBDでも大判でも絶対買う!!
ゲンマさんだけじゃなくてライドウさんやアオバさんとかアンコちゃんとか魅力的なキャラいっぱいだと思う
2011 7 18 水無月