「っは……はあ……」
木々の間を駆け抜け、可能な限りの最大の速さで、里を目指す。
空はまだ薄暗く、森の中に太陽の光は射しこんでこない。
先に行っていい、と背中を押してくれた二人の姿が見えなくなっても、は速度を緩めなかった。
朝日の眩しさに、自然と目が覚める。
時計を確認すると少し早い時間だった。
今日は昼から”試験”の打ち合わせがあるだけだが、どうも二度寝という気にもなれない。
とりあえず何か飲もう、と居間へ向かうと、カレンダーに記された赤い丸が目に入った。
「……アイツ、帰ってくるんだったな」
三年と半年前、見送った小さな背中を思い出す。
ふ、と無意識に笑みが零れた。
「――さて、どうやって驚かしてやろうか」
走って、走って、森に差し込む光が赤く鋭くなる頃。ようやく里を囲む門が見えてきた。
「見えた……!」
ずっと走り続けて、もう半分感覚もなくなっているが、懐かしい里の景色が全身に力を与えてくれる。
「よし、もうひと頑張り!」
門の見張りをしていたアオバとライドウは、近づいてくる気配を感じて、いつでも動けるよう構えをとった。
「……あ、」
そこへ、がひょっこり顔を出す。
「ん……?お前……」
「アオバに、ライドウ……?」
「もしかして、か?」
うん、と頷いて、は顔を輝かせる。
「わー、久しぶりー!二人とも変わってない!」
早速見知った顔に合えて、ほっと安堵する。
同時に、限界を越えた足がぺたりと地面についた。
「おい、大丈夫か?」
「はは、ちょっと頑張りすぎた」
痛みも疲労も通り越して、感覚がなくなっていた。
「少しでも早く帰りたくって」
「仕方ないヤツだ」
よ、っとライドウが肩を担いでを支える。
「とりあえず火影様のところへ連れてくぞ」
「あ、うん」
「――失礼します」
火影の執務室に入ると、は小さく頭を下げた。
「にございます。
先の対戦時、ひいては五代目就任の際にもお戻りすることが出来ず、申し訳ございませんでした」
「いや、お前はよくやってくれた。
詳しい報告はまた後ほど聞こう。
今はゆっくり体を休めておけ」
「はっ」
「ところで、戻ってきたのはお前一人だけか?
確か三人一組だったはずだが……」
「あー、そのー、私だけ先に戻ってきたんです。
二人も明朝までには戻ると思います」
「そうか?まあ無事ならいいが……
しかし、そこまでして早く戻りたい理由があったのか?」
「えーと、まあ、ちょっと」
ライドウに支えられてるは、困ったように言葉を濁す。
「まあいい、少しじっとしてろ」
綱手はの足に手を当て、チャクラを集中させる。
「……よし、これでいいだろ」
「あ……」
足の感覚が戻っている。
「動き回るのには困らんはずだ。いつまでもそうやってるわけにもいかないだろう」
「ありがとうございます!」
深く頭を下げて、はぱっと身を翻し出て行った。
「よほど嬉しかったみたいだな」
の背中が見えなくなって、綱手は苦笑する。
「……ですね。
では、俺も戻らせていただきます」
いつまでも一人にしていたら、後で何を言われるか。
「ああ、すまんがもう一つ頼む」
「? 何ですか?」
振り返ったライドウに、綱手は傍らの山を指差す。
「これを資料庫に戻しといてくれ」
「……はい」
「んー、やっぱちょこちょこ変わってるなー」
火影低を後にしたは、街中を適当にふらつきながら家を目指していた。
木の葉崩し、そして三代目の逝去
里を揺るがす大きな事件の話は、遠く離れた国にも届いた。
任務も大切だったが、不安でたまらなかった。
ふと気がつくと、待機所の前まで来ていた。
帰り道の途中なので当然なのだが、気が向いたので寄ってみることにした。
「おじゃましまーす……と、」
暖簾をくぐると、中は思いの外閑散としていた。
「やっぱみんな忙しいのかな……あ、」
ぐるりと中を見回すと、見知った背中が目に入った。
「紅?」
「その声……?」
わぁー、と横から抱きつく。
「久しぶりー!会いたかったー!」
「元気そうじゃない」
「紅も。変わってないね」
「ったく……相変わらずだな、お前は」
覚えのある声に顔を上げると、二人の男が頬杖をついてこちらを見ていた。
「カカシ、アスマ」
いたんだ、と呟くと、アスマがげんなりとため息をついた。
「お前、気づいてただろうが」
「まあ一応。でもいいかなーって」
「そーゆーところはホント変わらないねえ」
目を細めてしみじみと呟くカカシは、ところで、と話題を切り替えた。
「いつ帰ってきたの?確か今日の夜中に成るって聞いてたけど」
「あー、うん。早く帰ってきたくて。ちょっと急いできた。
報告は後日でいいって言われたし、ようやくゆっくり休めそうなの」
「んなに焦らなくたって、明日はどのみち休みだろ?」
長期の任務から帰ってきた忍に休みが与えられるのは慣習となっており、も明日一日は休みになっている。
「ん、まあ、そうなんだけど……」
頬をかきながらは言葉を濁す。
「会いたくなったんでしょ」
紅の一言に、はう、と言葉を詰まらせる。
カカシとアスマもああ、と頷いた。
「任務と割り切ったって寂しいものは寂しいもんねえ」
「……んで、アイツには顔見せたのか?」
「それは……その……」
ますますは口ごもる。
「そういや……任務じゃなかったっけか?」
カカシの言葉にうん、と頷く。
――そのことは、ライドウが火影邸に行く途中で教えてくれていた。
「あー……その、期待を裏切るようで悪いんだけどな」
「? 何が?」
「任務に出てんだよ。ゲンマのヤツ」
「へ?」
ぽかん、と開いた口がふさがらなかった。
「今日中には戻るっつってたけどな」
「じゃあ、今いないってこと?」
「まあ、そうなるな」
「そっかー……」
二人と古くから付き合いのあるライドウは、危険な任務じゃないから心配すんな、と最後に付け加えた。
「まあゲンマのことだし、が戻る時間に合わせて帰ってくるつもりなんじゃない?」
「そうそうゲンマ君のことだし。ちゃんと有給もとってるんでしょ?」
多分、とは頷いて、自嘲気味に微笑んだ。
「まあ、仕方ないよね。みんな忙しいみたいだし……
私やゲンマだけってワケにもいかないよ」
木の葉崩しの残した爪痕は大きく、復興のために必要な人ではどれだけあっても足りないほどだ。
おそらくも、休みが終わればまた毎日のように任務へと借り出されるようになる。
「うん。仕方ない。休みもらってるだけありがたいと思わなくちゃ」
は自分を納得させるように大きく頷く。
「さて、それじゃあ私そろそろ行くよ。
他にも顔出してこないと」
「そう。また今度飲み会の連絡回すわ」
「ん、りょーかい」
じゃね、と手を振って、は待機所を後にした。
一通り顔を見せてきて、最後にゲンマの家の前で足が止まった。
「……一応、行っとこうかな」
ドアの前に立ち、首にかけていた紐をはずす。
少し汚れた、鈍色の鍵。
任務の伝達があった直前に、ゲンマから渡されたものだ。
「そういえば、初めて使うな……」
そっと差し込んで、鍵を回す。
カチャ、と小さな音がしてドアが開いた。
「おじゃましまーす……」
中に人気は無い。
「やっぱりいないか……」
はあ、とため息をつく。
とりあえず電気をつけて、居間に入る。
「……」
必要最低限の家具と、小さな鉢植え
あまり物を置きたがらないゲンマの性格が良く表れた部屋だと思う。
何気なく、ソファに腰を下ろす。
いつもが座る定位置だ。
「……久しぶり、だな」
何年ぶりだろう。任務で遠く離れていたはずなのに、この風景も、匂いも、鮮明に思い出せる。
「……」
背を凭れて、全身の力を抜くと、不思議と意識が落ち込んできた。
安心したのかもしれない。一気に、眠気が襲ってきた。
会議が長引いたせいで、里に着くころにはすっかり日が暮れていた。
「……?」
任務を終えて家に戻ってくると、明かりがついていた。
「電気つけてった覚えはねえが……」
不審に思いつつもドアを開けてみる。
「……そういうオチか」
居間に入った瞬間、一気に肩の力が抜けた。
ソファの定位置で、気持ちよさそうに眠りこける恋人の姿。
「ったく……」
肩でため息をついて、静かに彼女の傍らに歩みよる。
「帰ってたんだな」
いくらか伸びた髪にそっと触れると、が小さく身じろぎした。
「ん……ゲン、マ……?」
「悪い、起こしたか?」
「ううん……寝るつもりは、なかったんだけど」
目をこすり、はゆっくりと体を起こす。
「任務じゃなかったの?」
「任務っつーか、次の中忍試験の打ち合わせだ。
本当はもう少し早く帰ってくる予定だったんだけどな」
「そっか」
ふあ、と欠伸をしながらは半身をぐっと伸ばす。
いつものだ、と微笑をこぼして、ゲンマは隣に腰を下ろした。
「お前、帰ってくるの夜中とか言ってなかったか?」
「急いで帰ってきたの。早く……会いたくって」
「んな焦んなくても、明日はちゃんと休みとってあるって」
「わかってる。ただ、なんとなく……」
こてん、とゲンマの肩に頭を乗せる。
「あー、ゲンマだ」
「なんだよ、それ」
寄り添う肩に腕を回すと、懐かしい匂いが鼻腔を擽る。
「なんかようやく帰ってきたなーって感じがする」
「ま、お前がいない間いろいろあったからな」
「いろいろ、ね……」
でも、とは体を起こしてゲンマの顔を覗き込む。
「変わらないものもあった。
ゲンマも、みんなも全然変わってないもの」
「お前もだけどな」
「うん。だから安心した。
帰ってきて、懐かしいと思えるものがあったから
この部屋も、この風景も、この場所も……」
「で、すっかり寝ちまったわけか」
「あはは、まあいいじゃない。
急いで帰ってきて疲れてたんだから」
そういって、もう一度細い体がゲンマに寄り添う。
「会いたかったよ。ゲンマ」
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あとがき
何かいろいろスミマセンorz
以前から書きたかったネタと言えばそうなんですが……
あとタイトルの通り、ライドウさんと上忍師’sを出したかった。むしろそれが本望。
とにかくおめでとう!いつまでも愛してますv