、」
低い声で呼べば、腕の中の少女(と呼ぶべきか否か微妙なところだ)がゆっくり顔を上げる。
「なーに?」
「……いや、呼んだだけ」
「何よそれ?寝ぼけてる?」
「……かもな」
苦笑を零し、ゲンマはの髪をさらさらと梳く。
同じシャンプーなのに、彼女の髪は不思議と甘い香りがする。
「なんかいろいろと思い出してた」
「? なにを?」
と出会ってからのこと」
ふ、と微笑うと、はきょとんとした表情でこちらを見上げてくる。
その仕草が、堪らなく可愛らしい。
「たしか、私が病院に花を届けに行った時だったよね」
普段贔屓にして貰ってるお客様に宅配を頼まれて、手の空いていたが行った。
「でも病室の場所が途中で分からなくなって、」
看護士さんか誰かを捕まえて聞こうにも、誰も通りかからなくて、右往左往していた。
幸か不幸か、今までは病院という施設とは殆ど無縁で生きてきたのだ。
「でっかい花束抱えておろおろしてるのは端から見て結構面白かったな」
「面白がるな!本当に困ってたんだから!」
思い出しながらくくっと笑うと、むぅ、と口を尖らせる。
その仕草がまた可愛らしくて、思わずの細い体をきゅう、と抱きしめた。
わ、と不意をつかれてはゲンマの肩にしがみつく。
「で、教えてやったら目ぇきらきらさせて、」
ありがとうございます!とポニーテールを揺らしながら去っていく背中を思い出す。
「子犬みてぇ、って思った。」
「こ、子犬?!そんな風に思ってたの?!」
「ああ、尻尾振って獲物追っかけて、って感じだった。」
「……どーせ単純ですよーだ。」
こっちもまたむくれて、ゲンマの肩に顔を埋める。
「子供っぽいし……いつもゲンマの方が上手だし……」
「だからいいんじゃねぇか」
マイナス思考になっていくの背中をあやすように軽く叩く。
「くるくる表情が変わるのは見てて飽きねぇし、」
乾いた頬にそっと触れる。
「純粋で、裏表が無くて、」
降りた前髪を払い、白い額に唇を寄せる。
「……俺たちにない強さを持ってる。」
そう言って視線を合わせると、触れていた頬にほんのりと赤みが差した。
「私、別に強くないよ」
「強ぇよ。自分に真っ直ぐ、正直に生きてる。
……俺たちには出来ない生き方だ。」
――そう言ったゲンマの瞳が、少しだけ寂しげに揺れたように見えたのは、気のせいだったのだろうか。

「まぁ、最初はお前と付き合うなんて思ってもなかったな。」
それを吹き飛ばすように、ゲンマはからりと笑う。
「イジって遊んだら面白そうだとは思ったけど。」
「なっ……」
さっきの感動が台無しだ、と反論しかけて、ゲンマの言葉に遮られる。
「でも、こうしてここにいるのがお前で良かった。
――お前を好きになって、良かった。」
そう言って、甘えるようにの肩口に顔を埋める。
ゲンマの方こそ、犬みたい。
「なぁ、
そんな風に思っていると。もう一度耳元で名前を囁かれた。
「ん?」
「俺は忍で、お前は花屋の店員で、世界も生き方も違うけど、」
「うん」
「何処でも、どんな時でも、お前のことを想ってる。」
「うん」
「お前のいるところが、俺の帰る場所だから……」
「……うん」


だから、ずっと傍にいてくれ


祈りのような告白は、優しい口付けに重ねられた。








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 あとがき
遅くなってサーセンorzゲンマさんはぴば!!
甘えるゲンマさんが書きたかった。あと忠犬ヒロイン(笑)は
書いて楽しかったですww
 2009 7 20   水無月