「ほら、用意できたらさっさと焼いてきやー」
パンパン、と手を叩いた白石の合図で、みんな動き出す。
さすがは腐っても元部長というところだろうか。
みんなもみんなで、身体が自然と持ち場についている。
チームワークがいいというか、引退しても相変わらず仲がいい。




『大晦日一人で寂しいねん。
せやからみんなで集まってたこ焼きパーティーしようや』
本音を隠そうともしない顧問のこんな提案で、久しぶりにレギュラーメンバーが集まることになった。




「じゃ、第一弾いっくでー。準備はエエか、小春ー?」
「いつでもオッケーよー」
お笑いダブルスの二人がぴったりのタイミングでタネを流し込んでいく。
どうやらあのあと普通に仲直りしたらしい。
「じゃ、蛸入れますわ。誰か他のやつやってください」
財前がてきぱきと蛸を入れていく。
続いて銀が黙ってねぎ、天かす、紅しょうがをのせた。
「う〜めっちゃ美味そう!はよ食べたいわー!!」
金太郎は目をきらきらさせている。
本人も食べるのが専門と言っているように、手伝わせるといろいろと悲惨になるので唯一調理には参加していない。
「ほな謙也、ぼちぼち返してこか……ってもう返し始めとるし」
「甘いで白石。浪速のスピードスターの先手を取るには百年早いわ」
「ったく……スピード関係あらへんやろ」
白石と謙也がピックを持って、くるくると返していく。
「ソースと青ノリ、カツオ節持ってきましたー」
「ああ、すまんな。
焼きあがる頃を見計らって、テーブルの上にトッピングを並べる。
「おーし、焼けたでー。取ってきやー」
「よっしゃー!!」
「金ちゃん、一人4つまでや!」
金太郎が我先にと手を伸ばすと、すかさず白石の注意が飛んだ。
「ふふ。金ちゃん、私の分やったら食べてええよ」
はピックでたこ焼きを三つほど取ると、金太郎の皿に入れてやった。
「わーい!おおきにー!」
、食べんでええんか?」
「折り見て食べてきますんで、大丈夫です」
「すまんな、こんな馬鹿騒ぎにつき合わせて」
小石川が小さく肩をすくめて見せる。
こんなやりとりも、あの時と変わらない。






「――お、やっとるたい」
年の瀬のテンションで騒いでいると、いつもの口調で、カラコロと下駄を鳴らして千歳が入ってきた。
「おー、千歳ー」
「遅いくせにええタイミングやな。今から次焼くところや」
「はは。すまんたい」
この人のマイペースもいつものことだな、と思わず表情が緩む。
「どうぞ、お箸とお皿です」
。来とったとね?」
「昨日、メールしましたよ。
皆さん集まるから、千里さんも来て下さいって」
「あー……見たかもしれん」
「……でも、来てくれてよかったです」
「はは。年の瀬くらいは、お前さんとおるとよ」
「はい」
はにかむの髪を、千歳の大きな手のひらがくしゃりと撫でる。
さっきまでも楽しかったけれど、この人がいるだけでそこに幸せがプラスされる。
現金だけど、嬉しいものは嬉しいのだから仕方ない。
「おーい、入って早々イチャつくなっちゅーねん」
謙也が野次を飛ばして、みんなが笑う。
冷やかされて頬を赤らめたに、また笑いが起こった。






「よーし、残り持ってけー。次焼くでー」
謙也がタネを流しこみ、財前が手際よく具を入れていく。
「アイツらまだ食うやろなー。、すまんが具、切ってきてくれへんか」
バットに残った材料を見て、白石がを振り返る。
「わかりました。さっきと同じくらいでいいですか?」
「ああ、頼むわ」






「蛸はこんなものかな。あとは……」
空っぽになりかけだったバットに、具材を盛っていく。
、」
紅しょうがを刻んでいると、背中から声をかけられた。
「あ、千里さん。
ちょっと待っててください、今しょうが刻み終わりますから」
「ああ、気にせんでよかよ。それより、何か手伝うことはなかと?」
「それじゃあ、具のバット持ってくの手伝ってください。あとネギ切ったら終わりますから」
「それまでは何しとっと?」
「えっと……ここにいてください、って言ったら、迷惑ですか?」
呟くように零して、千歳を見上げる。
「よかよ。」
微笑みとともにくしゃり、とまた髪を撫でられた。
ありがとうございます、と自然に零れる笑顔で、は長ネギをまな板に置く。
「んー、もう一束切ったほうがいいかな……」
包丁で筋を入れて、トントンと手際よくみじん切りにしていく。
、手際よかとね」
隣に立つ千歳が、の手元を覗き込んで言う。
「一人暮らしなので、すっかり慣れちゃいました」
「いい嫁さんばなれるとよ」
「ふふ。それはちょっと大げさですよ」
「俺なら喜んでもらうたい」
「えっ……あ、あの……」
思わず赤面して固まったに、千歳ははは、と笑みを零した。
「もう……またからかって……」
「ん?俺は本気たい」
「……っ」
上手く返せる言葉がなくて、はとにかく早くネギを刻んでしまおうと手を動かした。





バットを持っていって、またひたすらたこ焼きを焼く作業が始まる。
、これ持ってきいや」
一通り焼けたところで、白石が十個近くたこ焼きの盛られた皿を差し出した。
「折角千歳もきたんや。縁側空いとるから、二人でゆっくりしてき」
「え、あの……」
戸惑うに、白石は呆れたようなため息を吐く。
「お前らのラブラブオーラ見せ付けられたら胸焼けするねん。
ほら、千歳が待っとるで。早よ行きや」
「は、はい」





みんなの騒いでる部屋から少し離れた縁側に行くと、千歳が腰掛けて夜空を見上げていた。
「あの、千里さん」
「お、来たっとね」
座りなせ、と隣に手招きされる。
「これ、白石先輩からです」
熱々のたこ焼きを差し出すと、千歳はそうか、と一つつまんで口に放り込んだ。
「ん、美味か。も食べなっせ」
「はい。……ん、熱っ……」
二人だけで食べるたこ焼きはまた違う美味しさがあるなー、なんて先輩たちの前で言ったら冷やかされそうなことをぼんやり考える。
「……あのですね、千里さん」
たこ焼きを飲み込んで、はおもむろに切り出す。
「今日は、千里さんの誕生日だから。その……おめでとうございます」
「あー……そういえばそげん日やったとね」
千歳は今の今まで忘れていたかのような口ぶりだ。
「もう、自分の誕生日なのに……
けど、そういうところ、千里さんらしいです」
ふふ、と笑うと、急に抱きしめられた。
「せ、千里さん?!」
「ほんに、はむぞらしか」
「あ……もう……」
背を包む腕を振りほどけるわけもなく、は千歳の胸に身体を預ける。
、さっき言ったことば覚えとっと?」
「え?」
「お前さん、嫁にもらいたいば言うた話たい」
「そ、それは……」
が言いよどんでいると、抱きしめる腕に力がこめられた。
「あー……そのな……俺も、あまり口が上手くなか。普段あまりお前さんにちゃんと言ってやれんこつ言おうと思ったったい。
ばってん、上手く言えん……慣れんこつばせんほうがよかね」
はあ、と千歳は吹っ切るようにため息を吐いて、の耳元に唇を寄せた。
のこと、好いとう。誰よりもお前さんが大切たい。
だけん、ずっと……俺の傍にいてくれんね?」
「千里さん……」
囁かれる低音に、ドキンと胸が高鳴る。
「返事、くれんと?」
「あ、あの……えっと……はい……」
何とか頷いて肯定すると、不意に彼の指先が頬に触れて――



――唇が、重なった。




「ん……っ」
思わず瞼を伏せると、深くなる口付けに身体が震える。





「……あー、すまん。抑えきかんくなったたい」
「い、いえ……」
息が上がる前に解放され、千歳は照れ隠しのように頬をかいた。
と、どこか近くの寺から除夜の鐘が聞こえてくる。
「……今年も終わりっちゃね」
「そうですね……いろいろありましたけど、楽しかったです」
「年明けたら、初詣いかんね?」
「もちろんです」




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 あとがき
新年初夢がこんなgdgdですみませんorz
昨夜年の瀬のテンションで千歳の誕生日を祝いたくて突発的に書きました。
執筆にかかった時間がおそらく過去催促です(笑
四天でたこ焼きパーティーと、ヒロインにラブラブな千歳はやりたいと思ってたネタだったので結構満足ですww
千歳誕生日おめでとう!そして今年もよろしくです!!
 2010 12 31-2011 1 1  水無月