「――っはぁ、はぁ……」
夜明け前の森を翔る二つの影
一人は男。180センチの長身に、口元には長楊枝
一人は女。男とは対照的な小柄な体に、腰まで伸びた藍色の髪
「――!」
不意に、片方の影が止まる
「どうした、」
「動きが変わった。別方向……3、4、…………全部で6つ」
「どうする。ルートを変えるか?俺はお前の指示に従う」
「いいえ、ルートは変えない」
きっぱりと言い切り、は指で下を指した
地上に降りろ、という指示だ
ゲンマは小さく頷き、先に木から飛び降りる
続いても降りてきた
「で、どうする」
「暫くやり過ごしましょう
相手は私たちを見失ってる。方向の見当は粗方ついたようだけど、まだ見つからない
ここは進行を止めて裏をかく」
「わかった」
「ん、じゃあそこの木の陰に隠れましょう」
二つ返事で頷き、ゲンマはに続く
「さてと……これぐらいあれば横になれるよね?」
「そうだな」
「じゃ、始めるからちょっと下がってて」
ゲンマがしっかり下がったのを確認し、はす、と瞳を閉じる
「――――」
ピン、とあたりの空気が張りつめる
「……」
集中しているの背中をゲンマは静かに見つめる
そして数分後
「――術式、完了。秘術、鏡華之幕間!」
の詠唱で、仕掛けられた術式が発動する
それは見えない壁となってあたりを包み込み、静かにとけ込む
「――よし、完璧」
きちんと発動したことを確かめ、は満足げに呟く
「これなら1日はバレない。――もっとも、そんなに長居するつもりはないけどね」
「そうか。……にしても、これで大丈夫なのか?思ったよりは壁が薄いな」
「ゲーンーマー……私を誰だと思ってるの?木の葉随一の結界使いの一族よ?
この結界にだって、ちゃんと意味はあるんだから」
「わかってる。お前の実力は俺がよく知ってる」
「だったら心配ないでしょう?」
「まあな。訊いたのはただの気まぐれだ」
「それなら、いいけど」
の家は木の葉屈指の結界忍術使い
数年前当主を務めていたの兄が殉職し、が当主の座に着いた
また、生まれつきの天才的なセンスと弛まぬ努力の結果、は歴代最強とも謳われている
彼女の結界が破られたことはなく、その実力には誰もが一目置いていた
今回の任務はゲンマとツーマンセルで臨むSランク任務だった
内容は近隣の小国に盗まれた機密文書の奪還
すぐにでも追ってほしいと言われたので、出発したのがいつ頃かは覚えていない
たまたまパートナーが同居人――ゲンマだったので、わりと早く出発できた
「それにしても……思ったより早く奪還できたね」
木の幹に背を預け、二人並んで腰を下ろす
「相手に隙があったのか、お前の結界が反則的だったのか……ま、どっちでも良いけどな」
「そこはせめて恋人を称えて後者を選びなさいよ」
「お前の結界なんざ飽きるほど見てんだ。……それでもネタがつきねぇのは何でだよ?」
「結界は複数使えるに越したことはないし……ネタがつきないくらいなけりゃ木の葉屈指の結界使いなんて名乗れないわよ」
「そうだな。あとは体力不足を補えば最強だな」
「む〜〜……いいもん。体力がつきる前に片づければ良いんだし」
「毎晩あれだけヤってんのに何で体力つかねえんだ?」
「っ/// バカゲンマ!!」
ぺち、とほおを小さな手でぶつ
「やっぱ力ねえなー」
「うっさい!」
「騒ぐくらいなら休んどけ。俺はあくまでお前の補佐なんだからな。
お前が倒れてちゃ意味ねえだろうが」
ぐい、との細い腕を引き、自分の方へ抱き寄せる
「ちょっ……ゲンマ、」
抵抗する間もなく閉じこめられ、その上からばさりとゲンマの上着が被さる
「しっかり休んどけ。俺が見張っておく
――日が昇ったら出発だ」
「う、うん……」
しっかりと抱きしめる腕のぬくもりはいつになく優しい
絡まる体温と優しくなでられる感触にすべてを忘れる
そしてうとり、と意識を手放しかけた刹那、
カチリ
「あ――」
胸元に掛けていた懐中時計が時を刻む
「っゲンマ!」
「どうかしたのか?」
真剣な表情に一瞬言葉を飲み込んでしまう
「あ、ううん、たいしたことじゃないんだけど……」
「何だ?」
「その……ちょっと、顔貸して」
「?」
怪訝そうな表情になるゲンマに思わず言葉が焦ってしまう
「いっ、いいから!」
眉根を寄せながらもす、と顔を近づけるゲンマに、今更ながらどきんとしてしまう
「で、何なんだ?」
「ちょっと、目閉じて」
またも怪訝そうな表情をするが、先程と同じ会話を繰り返すことを想定したのか今度は何も言わない
「……よし、」
準備が整ったので、いざ、と腹をくくる
「ゲンマ――誕生日、おめでとう」
小さく、短く、彼の耳元で囁く
互いに表情は見えないのに、顔は火がでそうなほどに熱い
「……」
ゆっくりと瞼を持ち上げたゲンマは、真っ赤な顔を見るなり
「――くくっ」
心底おかしそうに笑った
「ちょっ……!」
「悪ぃ、いや、でもお前顔真っ赤だぞ?」
「わかってるわよ!」
もう開き直ってるのだってきちんと自覚している
「それでも、今はこれくらいしかできないんだし……」
「……別に帰ってからでもよかったんじゃねえのか?」
「それは……だって、帰った頃にはお昼すぎてるじゃない」
「それがどうかしたのか?」
「絶対アンコが暇な奴ら集めて飲み会開いてる」
「……そうだな」
その光景はすぐに想像できた
「そうしたらみんながお祝いしてくれるけど……
……せっかくだし、一番におめでとうって言いたかったの」
顔を真っ赤にして話すは普段とのギャップがあって可愛い
「いつになく素直じゃねえか。何かあったのか?」
「人がせっかくお祝いしてあげてるのに何その感想!?」
「あぁ、そうだな。せっかくだしもらえるもんはきっちりもらっておくか」
「は?……」
突然話を切り替えられ、
「……っんん」
息ができなくなる
「もう……帰るまで我慢してよ」
酸素不足と恥ずかしさで赤くなった顔をゲンマの胸に埋める
「これぐらいはいいだろ?それともなんだ、腰が抜けたか?」
「ばっ……そんなこと!」
「ならいいだろ。――ほら、さっさと寝ろ
それとも、眠れないのか?」
「っ……わかってるわよ。寝る」
「最初から素直になってりゃいいのに」
「……うっさい」
憎まれ口をたたくけども
その気持ちは一番わかる
「ありがとな、」
それは、自分の大切な、かけがえのない宝物だから
「――――愛してる」
――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
ゲンマさん誕生日おめでとう☆永遠の29歳w
久し振りに書いたらおかしくなっちゃいました;
とりあえずラブラブで書いてみました
とりあえず好き放題書いてやりました。
妄想爆発とか(謎
2007 7 17 水無月