消えぬように、


  忘れぬように、


  形に残しておきたい



  そう思うのは、ワガママですか







 「ねぇ、バルフレア」
 ベッドにうつぶせ、は些か気落ちした口調で話を切り出す。
 「…わ……なんだけど」
 「何だ?」
 枕の所為で声がこもり、聞き取りづらい。
 「いや……だから……その……」
 恐らくわざとやったのだろう。
 話しにくい内容のようだ。
 「話しにくいんなら無理には聞かない」
 どうする?と問いかければやや渋い表情になった。
 そして、妙に気落ちした口調のまま答える。
 「……話す。
 当分野宿になるんだろうし」
 むくりと体を起こし、頬杖を付きながら話を再開する。



 「……指輪、欲しいなって思って」
 「指輪?」
 「そ、指輪ー……」
 「そんなもの、探せばいくらでもあるだろうが」
 あっさり返されるが、こんなことで納得するくらいならこんなに気落ちはしない。
 「そーじゃなくて、」
 続きを言いかけて、ふと思い出した。
 「……そーいえばさ、どうしてアーシェの指輪取ったの?」
 「取ったんじゃねぇよ。報酬だ」
 「同じ様なものじゃない。
 ――で、どうして?」
 「さぁな」
 簡潔にも程がある。
 バルフレアの答えに納得がいかず、つい自分のことは棚に上げて追求してしまう。
 「だってそれ、婚約指輪だったんでしょ?アーシェとラスラ王子の」
 「らしいな」
 「いくら値打ちがあっても、そういうものを取り上げる?
 そんなヤツ生まれてこの方初めて見たわ」
 「そりゃよかったな」
 「………はぁ」
 いつものことながら結局最後ははぐらかされてしまう。
 思わず大きくなったため息に、バルフレアの眉根が寄せられる。
 「何イラついてんだ」
 「別にー……いつものことながら上手くかわすなーって思っただけ」
 呆れたような返答に、今度はバルフレアがため息をつく。
 「他人の話なんざしてもおもしろくねぇんだよ。
 ……さっきの続き、聞かせろ」

 「無理に聞かない」とか言ったくせに。
 いつの間にかの命令口調に内心文句を言いながらも、は続きを話した。
 「バルフレアから指輪が欲しいの。
 別に高価いものが欲しいんじゃなくて、バルフレアから送って欲しいの」
 その言葉で、漸くの言いたいことが理解できた
 「……要するに、婚約指輪、ってヤツか?」
 「そんな大それたものじゃないし……それに……」
 ゆっくりと、は自分の左手をランプにかざす。
 「指輪って手につけるから……すぐに汚れちゃうでしょう?
 私なんて剣がメインだから、返り血浴びちゃったりするし……
 欲しいんだけど、何か迷ってるの」
 そう言って微笑むの表情は、何処か哀しげだった。
 「何匹も殺して血を浴びて……
 汚れてしまったの、私の手は……
 ……汚れすぎて、もう元には戻せないから……」
 かざした手のひらをきゅ、とにぎり、静かに下ろす。




 「――バカなこと言ってんじゃねぇよ」
 下ろした手を掴み、自分の方へと引き寄せる。
 「わっ……」
 バランスを崩し、倒れ込んできた身体をそっと抱きとめる。
 「お前の手は汚れてなんかいねぇよ」
 「え……?」
 「守るために戦っているお前を……汚れてるなんて誰が言った?」
 「それは……」
 「それにな……指輪が欲しいと言ったお前の手は……
 ……紛れもなく、女の手だ」
 そういって軽く手の甲に口付ける。
 「っ/////」
 そのまま指先にそっと唇で触れ、ちゅ、と優しく吸い上げる。
 「あ……///」
 ドクン、ドクン、と指先が熱くなって、強く脈打つのがハッキリとわかる。
 普段は意識しないけど、指先もちゃんとした性感帯の一つだとか……
 

  どうしよう……
  顔まで熱くなってきた……




 「……、」
 「なっ、何」
 「指輪……欲しいか?」
 「え――?」
 「欲しいのか、欲しくないのか。どっちなんだ?」
 「……欲しい……かも」
 「なら……」
 そう、と唇を滑らせ、そっと指の根本までたどり着く。
 

  ――左手の、薬指に。



 「……忘れるなよ?」
 小さく囁き、その場所にもそっと唇を落とす。
 「バルフレア……?」
 もう何がなんだか訳がわからない。
 されるがままに身体を預けて、赤くなった顔を見られまいとそこだけ必死になる。
 


 「――、」
 「?」
 「……今はまだ、指輪は贈らない」
 「……」
 「その代わり……予約をしておいたからな。キャンセルはなしだ」
 「え……」
 ドクン、と再び指先が強く脈打つ。
 「忘れるなよ。
 その場所は……もう俺の物だ。
 ……誰にも渡すな」
 「……ん、わかった」
 思わず笑みがこぼれる。
 クサイ台詞なのに、何故だか安心した。



  羨ましいとか

  不安だとか

  そういう意味じゃない


  ――ただ一つ、欲しかったのは……

  消えない印

  忘れることのない想い


  永久(とわ)の絆




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ユミ様の運営されてる「O.N.E」の一周年企画に参加させていただいた折りに
作品として提出した物です。
バルフレアなのでこのぐらいあっさりやってそうです。
んでもって狙ってます。ハートのど真ん中狙ってます。