「んー……こんなもんでいいかな?」
ゴムべらでボウルの中身をすくい上げ、塩梅をみる
「ちょうど良いくらいですよ」
「それじゃ、次はバターを入れて、っと……」
早めの夕飯の後片付けをすませ、桜とは台所に並んでいた
「よいしょっと……結構重いね」
「量がありますからね」
「そうね。桜、重いんなら変わるから、無理して手を痛めちゃだめよ?」
「大丈夫です
でも先輩、そんなにたくさん作ってどうするんですか?」
「クラスの友達に配るのと、部員の分と、
あと、藤ねえとかセイバーはたくさん食べそうだからね多めに作ることにしたんだ」
答えながらはボウルの中をかき混ぜる
先輩は、どんな風に仕上げるんですか?」
「量があるからね。バットで固めて四角に切って、ココアと粉砂糖で仕上げるつもり。桜は?」
「私は、普通に丸めて、ココアやココナッツとか……いろいろかけます」
「へぇー。何種類くらい?」
「4種類くらいです」
「すごいねぇ。誰にあげるの?」
「えっと……部活でお世話になっている人と、先輩や遠坂先輩、藤村先生やセイバーさんと、あと……」
語尾を濁す桜の方をみてみると、自分の出していない、ハートの型がおいてあった
「それは……本命かな?」
「あっ、それは……」
「となると、今ので挙がってない面々からとるとするなら……士郎だね?」
にやり、と笑みを浮かべると、桜は顔を赤くし、へらを握ったまま固まってしまった
「ほらほら、手が止まってるよ」
「は、はい!」
声が裏返った桜をがまた笑い、今度は拗ねたように頬をふくらませる桜を、がなだめる
そんなやりとりを交わしながら、二人は楽しくチョコレートづくりを進めていった





「――そろそろ固まったんじゃない?」
「そうですね。冷蔵庫から出しましょうか」
居間でしゃべりながらラッピングを考えていると、時計の針が十時を指していた
「上手くできてるかな」
「きっと大丈夫ですよ」
エプロンを着け直し、冷蔵庫を開ける
「どれどれ……」
それぞれの、チョコを固めた容器をとりだす
「……どう?」
「ちゃんと固まってますよ。大丈夫です」
微笑む桜にいくらか安心し、
「それじゃあ、お互いに味見してみようか」
適当につまんで、口の中に放り込む
「……」
「……」
「――美味しい」
「美味しいです」
顔を見合わせて、二人は思わず笑みをこぼした
「じゃ、ラッピングしようか」
「早く終わったら手伝いますよ」
「ありがと。でも大丈夫だから。
桜、明日も朝早いんでしょう?夜更かししちゃだめよ」
二段に重ねたバットを抱えて、は居間の方に姿を隠した





「ふう……あと少しか」
ラッピング作業をひたすら進めていたは、軽く息をついて体をいっぱいに伸ばす
 桜が自分の作業を終えて、こちらを手伝おうと顔を出してきたのが20分ほど前
その桜には早く寝るように(元々泊まり込みの予定だった)言ってある
「一度数えてみようかな」
渡す相手のリストを取り出し、残りを包みながら数えあわせてみる
「ひい、ふう、みい……」
いくらかまとめて数えながら、リストとあわせてみる
「みい、よ、……あれ?」
あわせてみると、数が一つ多い
「数間違えたなー。あちゃー」
一通り袋に入れてしまったので、戻すのも今更だ
「あと誰かもらってくれそうな人は……」
思い浮かんだのは、一人の男
「……甘いもの、好きなのかな」
赤い衣の騎士と、甘いチョコレートの組み合わせを想像してみる
「……微妙、だな」
頭を振り、イメージをうち消す
「渡すだけ渡すか。セイバーにもあげるし……」
おかしくはないはずだ、と自分の心に言い聞かせてみる
「――ちょっと早いけど、いいよね」
包みを一つつかみ、上着を羽織って庭にでる


 時刻は11時過ぎ。1時間弱のフライングだ





「アーチャーさん、いますか?」
屋根の上に声をかけると、騎士は音もなく現れた
「何か用か?」
「あ、あの……」
知らず、顔が火照る
この男と二人で話すことは滅多になかったな、と頭の端で考える
「チョコレート、作ったんです。
お口に合うかわかりませんけど……」
どうぞ、と差し出すと、アーチャーは珍しく驚きを表に出した
「……毒味か?いや、それとも本当の毒か?」
割と真剣な表情で訊かれ、は差し出したチョコレートを落としかけた
「違います!
そりゃあ、日頃あまり料理しないですし、そこまで自信はないですけど……
桜も美味しいって言ってくれましたし、大丈夫だと思います」
「……」
アーチャーはしばらく何か考えるように包みとを見比べて、
「――そうか、」
喜びか困惑か、どちらともつかないトーンでぽつりと漏らした
「ずいぶん楽しそうに作っていたようだしな」
「って、見てたんですか?」
「たまたま視界に入っただけだ」
「じゃあ毒だなんて人聞きの悪いこと言わないでくださいよ」
もう、と頬を赤く染め、改めて包みを差し出す
「それで……受け取ってくれますか?」
今度は、少しだけ間が空いて、
「そうだな。受け取っておくことにしよう」
和らいだ表情と言葉が返ってきた
「最初から普通に貰ってください」
拗ねたように口を尖らせると、ふ、と微笑が返される
「折角だからな。ここで食べてもいいか?」
「えっ?あ、はい。
……でも、味は保証できませんよ?」
「味見はして貰ったのだろう?」
「そうですけど……桜、優しい子だから」
彼女には失礼だが、自分に気を遣ってああ言ってくれたのかもしれない
「ふむ……その可能性は否定できないな」
「そういわれることを否定できないのが悲しいです」
そう話す隣で、アーチャーは四角に切られたチョコを一つ、口に運ぶ
「……」
「どうですか?」
訪ねるが、すぐに返事は返ってこない
「……そうだな、気になるか?」
「はい。自分では味見してないので」
「一つ食べてみるか?」
「あー……じゃあ、いただきます」
差し出されたチョコを口の中に放り込む
「あ、結構美味し――……」
柔らかく溶けたチョコを、味わう暇はほとんどなかった

「……んっ……」
口の中にチョコを運んだ直後アーチャーのソレで唇を塞がれていて、息ができなくなる
急激に上がった熱でどろどろに溶けたチョコを舌先が綺麗にさらい、そのままの口腔を犯していく

「――っ、は……」
足りない酸素で意識が白んでくる頃、漸く解放された
「こうして食べるのも悪くないな」
「ちょ、アーチャーさん……」
力が入らずアーチャーの腕に支えられているは、赤い顔で荒い呼吸を繰り返している
「いきなりなんてずるい……」
「味見をしたいといったのは君だろう」
「それは……でも……」
言い返そうと思って、この男に勝てる気がしないと悟る
「――だが、貰った以上は相応の礼はするさ
一月後を楽しみにしておいてくれ」
耳元で囁いた彼の表情は、心底楽しそうだった


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 あとがき
 遅れましたがバレンタイン夢です。弓です
 ヒロインと桜は本当の姉妹みたいな関係です
 ちなみに二人が作っていたのはトリュフです。
 今年管理人が作ったので使ってみました
 けっこう簡単に作れますよー。
 もうなんか弓がぶっこわれですみませんOTL
 2008 2 17 水無月