「誰と行こっかな……」
「おっ、ちゃんはっけーん」
顎に手を当て考え込んでいると、何処からか現れたのかゼロスが声をかけてきた。
「ゼロス、もう行ったんじゃなかったの?」
「そんなの俺様一人で行ったって楽しくないじゃん」
「楽しいも何も……普通の任務じゃない」
ちょっと規模は大きいけど、ということは言わないでおく。
「まぁいいじゃん。で、ちゃん今フリー?」
どこのナンパだ、と突っ込みかけたが、は黙って頷いた。
「ラッキー。んじゃ、俺様と一緒に行かない?」
ゼロスと一緒、か……
「ん、いいよ」
一人より二人。そう考えて頷く。
誘われて、悪い気はしなかった。
「で、私たちはどこへ行けばいいの?」
「ガレットで食材の入手だってよ。
嫌になるぜ。あそこ寒いから苦手なんだよな」
「そうかな?雪って綺麗だから、ずっと見てても飽きないけど」
真っ白の雪が多い尽くす白銀の景色は、すごく幻想的だった。
「……か…な」
ゼロスがぼそりと呟く。
聞き取れなくて、問い返してみても、曖昧に笑ってごまかされた。
「着いたっと……うー、さぶい」
「んじゃ、ちゃっちゃと済ませて帰るか」
「おっけー」
周囲の敵に注意しつつ、二人で食材の採取を進める。
「よーし、これでタマネギは集まったな」
ぐーっと全身を伸ばし、ゼロスは軽く息を吐き出す
「ゼロス、疲れてない?」
「おう、全然余裕よ。
何だ、ちゃん心配してくれてるわけ?」
にやり、と端正な顔に笑みを浮かべ、の頭をわしわしとなでる。
「ちょっ、やめてよ」
何とか逃れて、はくしゃくしゃになった髪を直す。
「だってゼロス、寒いところ嫌って言ってたじゃない。
だから一応気を遣ってみたのに」
何か減った気がする、とため息をつき、はそのまま食材探しに戻った。
「……お気遣いどーも」
背後でゼロスがまた何か呟いたのは、聞こえなかった。
「……えーと?」
「おいおい、何の騒ぎだこりゃ?」
船に戻ると、他のメンバーたちもちらほら戻ってきていた。
だが、船内の様子が出掛けとは違う。
「お、ゼロス、。おかえり」
「ロイドくん、一体何事よ?」
出迎えてくれたロイドに事情を聞く。
「ああ、例の依頼のことを聞いてな。
ここでもクリスマスパーティーやろうってことになって」
「一体誰がそんなことを?」
「発案者はイリアとファラらしいぜ。
んで、リリスとかが賛成して……」
「チャットはなんて?」
「”たまには良いでしょう”って言ってたぜ」
「もー、チャットってば……」
「準備結構忙しいみたいだから、何かいろいろ手伝わなきゃいけないみたいだけどな。
それにしてもパーティかー。わくわくしてきたぜ!」
じゃーな!とあわただしく、ロイドは去っていった。
「多分チャット、クリスマスケーキに釣られたんだね」
「だろうな〜あの船長さんは」
「とりあえず私報告してくるよ。
お疲れ様、ゼロス」
次の日の夜――
依頼人に納品を済ませ、バンエルティア号では盛大なクリスマスパーティが行われていた。
ツリーも飾りも、納品のあまり物や余分に持っていたものだけだが、元の船の造りもあってか結構華やかな雰囲気になった。
料理もパニールら厨房スタッフが腕によりをかけて作ったメニューが所狭しと並んでいる。
「それじゃあ、代表としてボクから。
みなさん、おつかれさまでした。かんぱーいっ!」
『かんぱーい!!』
かちん、とグラスがぶつかり合う。
おのおの、料理を取ったり、用意したプレゼントを交換したりする。
負に覆われつつあるとは思えない、明るい空間がそこにはあった。
「でね、キールったら……」
「あはは、そんなこともあるんだー」
は適当に料理をつまみながらファラやルビアたちと雑談していた。
「ふー……結構食べたなー」
「そう?私より少ないくらいじゃない」
ファラがお茶を啜りながら首をかしげる。
「あー、私お酒入ってるからかな、うん」
「酔っ払ってるようには見えないよ?」
「お腹にはたまるの。
……ちょっと、風にでも当たってくるよ」
鉄の扉を開けて、甲板に出る。
「……あ」
暗い海を背景に、紅玉の髪が浮かんで見えた。
「こんなとこにいたんだ、ゼロス」
「なーんだちゃんか」
「悪かったわね、私で」
「そんなこと言ってないだろー?
俺様ハニーはいつでも大歓迎よ」
「はいはい」
呆れたように肩をすくめ、隣に並ぶ。
ゼロスの軽い雰囲気が、今はなんとなく嬉しかった。
「ゼロス、何でこんなとこにいるの?」
「そーゆーちゃんは?」
「ちょっと酔い醒ましに」
「酒飲んでいいのか?」
「飲みすぎなければ問題ないっしょ♪、ってハロルドが言ってた」
一応リフィルにも確認してあるので、問題ないことは間違いないだろうが、念のため度数の高い物は控えておいた。
「へぇ……ディセンダーって、便利な体してんなぁ」
「ディセンダーは関係ないよ。体は普通の人間だもん。……多分」
「いろいろと普通じゃない気もするけどな」
「私は普通だと思ってるからいいの」
ディセンダー、なんていわれてもパッとしない。
今だってそう。負を浄化できるのはわかったけど、それだけだから。
「バンエルティア号の一員。それ以上でも以下でもないよ」
付け加えるように言うと、ゼロスがふ、と穏やかに微笑んだ。
「それで、ぜろすはどうしてここに?
てっきりみんなと騒いでるかと思ったけど」
「まあ、ちょっとな」
遠い世界中を見つめながら、ゼロスが呟くように答える。
風で舞う髪を押さえる仕草に、どきりとした。
やっぱり、かっこいいんだな。ゼロスって。
「……あ」
ふと、向こうを見つめていたゼロスが声を漏らす。
つられて顔を上げると、暗い海にふわりと白いものが舞っていた。
「雪だ……」
はらはらと舞い降りて、デッキに静かに積もっていく。
「綺麗……」
雪が光を反射して、きらきら輝く。
手のひらにのせると、それはすぐに溶けてなくなってしまった。
「ホワイトクリスマスだね、ゼロス。……ゼロス?」
ゼロスはぼんやりとどこかを見つめたまま動かない。
それはどこか――遠い、別の時を見つめているようだった。
「どうか……したの?」
「あー……いや、なんでもねえよ」
「嘘。
……ガレットのときも、そうだった」
「……よく見てんなあ」
やれやれ、と観念したようにゼロスはデッキに背を凭れる。
「昔……こんな雪の日だった」
ゼロスは、言葉を選んでいるのか、間をおきながら話す。
「ある事故で……俺の母親は死んだ」
「え?!」
「ま、正確には事故を装った襲撃で、狙われたのは俺。
……お袋は、俺を庇って死んだんだ」
「……そう、だったんだ」
沈黙が二人を包む。
聞いちゃ悪かったかな、と思ったが、それ以上に気になることもあった。
「その……どうして、ゼロスが狙われたの?」
「神子の地位狙いだ。
世界樹を奉じる神子の家系は、人々からも敬われてるからな。
……まあ、犯人にはもっと深い事情があったのかもしれねえけどな」
「そっか……」
嫉妬、羨望、そんなものはきっと誰にでもある。
でも、それが人を殺してしまうような事件になるなんて……
「……時々ね、」
「あ?」
不意に話し出したに、ゼロスが間の抜けた声を上げる。
「今度は私の番。といっても、昔話じゃないけど」
記憶を持たないディセンダーだから
そう付け加えて、はゆっくりと話し出す。
「私が、もっと早く生まれてればなあ、って。そう思うことがあるの」
ディセンダーは世界樹の危機に生み出される者。
でも、世界樹はもっと前から弱っていた。
「私が早く生まれてれば、もっと早く世界樹の危機に気づけたかもしれない。
そうすればこんな、人々が争うようなことにはならなかったのに、って。
内乱とか紛争の話を聞くと、時々心が痛いんだ」
「……」
「もっと早く世界樹を治して、負が浄化されてれば……
そしたら、ゼロスのお母さんも死ななかったかもしれないでしょ?」
犯人が負に影響されて事件を起こしたのなら……
ゼロスの話を聞いて、はふとそれが気になってしまった。
「……そうかもしれねえな。
でもよ、それはもう何年も前。俺がガキのころの話だ。
それに、たとえそうだったとしても……お前のせいじゃねえよ」
わしゃわしゃと急に頭をなでられる。
「わっ?」
突然のことにびっくりして、はぽかんとゼロスを見上げる。
「な、なに?」
「だから、んなの気にする必要ねえってこと」
「へ?」
「お前はお前なりに世界樹を救おうとしてる。
いいじゃねえかそれで。今できることをやってんだからよ」
「……うん、そうだね」
過ぎた時間は戻らないし、過去の記憶もないけれど
「世界はきっと元に戻る。
……そうしたら、悲しい思いをする人も減るよね」
いなくなってしまった人たちも、きっとそれを望んでいる。
だから今は前を見て、がんばらなくては。
「……ありがと、ゼロス」
「ん?何か言ったか?」
「何でもない。
寒くなってきたし、そろそろ中入らない?」
「そうだなー。腹も減ってきたし、何か食うか」
「私もあんまり食べてなかったからお腹すいちゃった」
デッキから離れ、ホールへと歩いていく。
「あ、ゼロスお酒飲めるんでしょ?ちょっと付き合ってよ」
「お、言うじゃねえか。飲みすぎてヤバいことになっても知らねえぞ」
「大丈夫だってば」
眩しい君の背中をを追う
雪の日の話
(君の未来のために、歩き出す)
――――――――――――――――――――――――――
あとがき
遅くなりましたが、クリスマス・ゼロスverです。
なんか……予想以上に重くなったorz
クリスマス→ホワイトクリスマス→雪→ゼロスという謎の連想で生まれたら
こんな結果に。
一応原作TOSの設定を踏まえて書いてみました。
2010 1 7 水無月