「ユーリ、よかったら一緒に行ってくれない?」
なんとなく頭に思い浮かんだ相手に声をかける。
「金持ちの道楽だろ?
ったく……こんなときに仕事引き受けるなんて、相当お人好しだな、お前」
駄目元で聞いてみると、やはりユーリはかったるそうにそう返した。
「だって、せっかく一年に一度のお祝いの日なんだもん。楽しく過ごしてほしいし」
「それがお人好しつってんだよ」
そういってユーリはふあ、と欠伸を噛み殺す。
「……なら、別の人に頼むよ」
はぁ、とため息をついて踵を返すと、
「あー、ちょっと待てって」
後ろから少し慌てたようにユーリに呼び止められた。
「誰も行かねぇなんて言ってねぇだろ。勝手に自己完結すんな」
「え?」
驚き立ち止まると、軽く身を起こしてユーリが隣に並ぶ。
「どうせ船にいても暇なんだ。肩慣らしに行く口実にもなるしな」
行くぞ、とユーリに促され、は慌てて機関室へ下りていった。




さんとユーリさんはマンダージ地下都市跡で食材を採ってきて下さい」
「了解」
「おう」

都市跡の中に降りると、気だるげだったユーリの表情が急に真剣になった。
魔物の気配が満ちているからだろう。
何処から敵が現れてもいいように、常に剣を抜ける体勢を維持している。
「お前は物探すほうに集中してろ。敵は俺が引き受ける」
「えっ、でも……」
一人じゃ危ない、と言いかけるが、目の前に出された彼の手のひらに遮られた。
「心配すんなって。勝手にどっかいったりしねぇよ。
お前はちゃんと守ってやるから」
だから探すのに専念しろ、とユーリは付け加えた。
「うん。なるべく急いで探すよ」
「そんな簡単にくたばんねぇから、安心してゆっくり探してろ」
呆れたような声が少し可愛く思えて、はくすりと笑みをこぼす。
変わってるけど、悪い人じゃないんだよね。





そんな理由で、戦闘は主にユーリが担当しながら、二人は都市跡を奥へと進んだ。
「んで、何を採るんだ?」
「パイン、グレープ、レモン、シナモン……デザートの材料だね」
「やっぱクリスマスとなるとケーキは欠かせねぇからな」
自他共に認める甘党の彼は、材料から何を作るのかざっと推測してみせた。
「自分では作らないの?確か前に一度作ってたよね」
「あー、それはそれで面倒だしな。
それに、誰かに見つかると連鎖反応で次々人が寄ってくるじゃねぇか」
「あはは。甘いもの好きな人多いからね」
何せキャプテンがその筆頭だ。ユーリがアドリビトムに来た頃、一度作ってもらったらしい。
「でも私食べたことないや。ユーリのケーキ。
そうだ!よかったら今度作ってよ。二人だけでこっそりさ」
「あー……気が向いたらな」
照れたような、困ったような表情で頬を掻いて、ユーリはぶっきらぼうにそう答えた。





「うーん。なかなか見つからないなー……」
ユーリの護衛のおかげで採取に集中できるのは良いが、それでも見つからないものは見つからない。
「あとどれくらいだ?」
「グレープとシナモンが少し足りないんだけど、なかなか見つからなくて……」
何度かユーリがグミを使っているのを見たからか、には焦りの表情が見える。
「ま、ねえことはねえだろうし、根気よく探すしかないな」
「うん、でも……」
「焦っても仕方ねえだろ。集中してねえと、見落とすぞ」
遠まわしに大丈夫だ、焦るな、と言われてるような気がして、少し気が楽になった。





それでもユーリを戦わせ続けるのは気が引けるので、一生懸命になって探す。
「あ、あった!」
足りなかった食材を見つけ、丁寧に採取する。
「ユーリ、終わったよ」
「おう」
くるくると剣を手持ち無沙汰に回し、ユーリがやってくる。
怪我もなさそうでホッとした。
「ありがと、ユーリ」
「気にすんな。んじゃ、とっとと帰ろうぜ」
と、鞘を担いだユーリの背後に、黒い影。
「ユーリ、後ろっ!」


だが、叫ぶより、刃が閃くほうが早かった。



「――甘いんだよ」
ユーリの手には、銀色に光る剣。
背後から忍び寄ってきた魔物を、ユーリは振り返りもせずに一撃で仕留めた。
「ユーリ……」
一瞬の出来事に、は驚いて座り込んでしまう。
「どうした、?」
「ちょっと、びっくりしただけ……」
実際はちょっとどころか腰が抜けてしまうほどだったが、ユーリはどうやってそれを察したのか、
「ほらよ、」
剣を片手に担ぎ、に手を差し伸べた。
「腰抜けて立てないんだろ?」
「あう……」
ユーリの手につかまり、何とか立ち上がる。
「そんなにびっくりしたか?」
「だって、危ないと思ったから……」
「俺がそう簡単にやられるかって。
もう大丈夫みたいだな。帰るぞ」
そういって、ユーリはさりげなくの手から荷物を取る。
――気を遣ってくれたのかな。
さりげない優しさに、大人だなぁ、とは内心呟いた。




「……えーと?」
船に戻ると、他のメンバーたちもちらほら戻ってきていた。
だが、船内の様子が出掛けとは違う。
「ユーリ、。お帰りなさい」
「エステル、一体何の騒ぎだ?」
通りかかったエステルに訊ねてみると、パーティの準備です、と楽しそうに返された。
「せっかくだからここでもクリスマスパーティをしようと、イリアとファラが言ったんです」
「チャットはなんて?」
「”たまには良いでしょう”とおっしゃってました」
「……はぁ」
はげんなりとため息をつく
「もーチャットってば……」
「こりゃのんびり昼寝なんてできそうにねぇな」
やれやれ、と肩をすくめ、ユーリは機関室へと降りていく。
「んじゃ、俺部屋に戻るわ。お疲れさん」
「あ、うん」
その背中が見えなくなってから、ありがとう、とまだ言えてないことを思い出した。





次の日の夜――
依頼人に納品を済ませ、バンエルティア号では盛大なクリスマスパーティが行われていた。
ツリーも飾りも、納品のあまり物や余分に持っていたものだけだが、元の船の造りもあってか結構華やかな雰囲気になった。
料理もパニールら厨房スタッフが腕によりをかけて作ったメニューが所狭しと並んでいる。
「それじゃあ、代表としてボクから。
みなさん、おつかれさまでした。かんぱーいっ!」
『かんぱーい!!』
かちん、とグラスがぶつかり合う。
おのおの、料理を取ったり、用意したプレゼントを交換したりする。
負に覆われつつあるとは思えない、明るい空間がそこにはあった。




「……あれ?」
適当に料理をつまんでいたは、ふとホールに彼がいないことに気づく。
「ユーリ、いないのかな」
きょろきょろと辺りを見回すと、甲板への扉が閉まろうとしているのが見えた。
「外……?」
パーティの喧騒を抜け、その後を追ってみる。
扉を開けると、冷たい風邪が頬をなでた。
「誰かいるの?」
暗い海を背に、誰かが甲板に座り込んでいる。
「……ユーリ?」
そっと近づいて、声をかける。
「ああ、お前か」
気だるげに顔を上げて、ユーリはようやくを確認する。
「どうしたんだ?こんなところで」
「私は甲板に誰か出てったから……ユーリは?」
「俺はパーティなんて柄じゃねぇからな。抜けてきた。
ここならエステルも安全だろうしな」
「そっか」
ちょこん、と隣に腰を下ろす。
「……あのさ、ユーリ」
言葉を選びながら、ゆっくりと切り出す。
「昨日、ありがとね」
「?」
「一緒に行ってくれて……
帰りも荷物持ってもらったし、いろいろと……」
「そんなことか」
「一応お礼言っておきたくて。それにさ、」
一度区切って、ユーリのほうを向く。
「こんな素敵な夜に、一人ぼっちだなんてつまらないじゃない?」
ユーリは呆れたような驚いたような表情でを見つめ、
「……お前ってヤツは」
小さく呟くと、おもむろにの頭をくしゃりとなでた。
「お人好しっつーか、呑気っつーか。ホント変わってるよな」
「そう?」
「ああ。
つーわけで、」
と、ユーリは懐から小さな包みを取り出す。
「そんなお前にご褒美だ」
「え?」
空けてみ、と促され、小さな箱を開く。
「わ、」
ふわりと、潮風に混じって甘い香りがした。
「これ、ケーキ?」
箱の中には、かわいらしいプチケーキが入っていた。
「食いたいっつってただろ?材料が余ったから作らせてもらった」
「いいの?もらっても」
「おう。ただし、他のヤツには内緒な」
バレるとうるせえからな、と苦笑し、それから小さな声で付け加える。



「メリークリスマス」



楽しそうな、大人の表情


目が離せない
(二人だけの秘密の聖夜)

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 あとがき
クリスマス・ユーリverです。口調がわからない……orz
最初は顔についたクリーム取るとかいうネタがあったんですが、何か自分の中の
ユーリのキャラにあわないような気がしてやめたんですよ。
でももうちょっとベタな感じにしてもよかったかなーと思ってみたり。
 2009 12 26  水無月