「ガイ、一緒に来てくれる?」
部屋で剣の手入れをしていたガイに声をかける。
「ああ、いいよ」
ガイは二つ返事で快諾してくれた。
「では、さんとガイさんはモスコビー砂漠でデザートローズを採取してきてください」
「了解!」




場所ごとにメンバーが降りていき、とガイも砂漠で降ろされる。
「……にしても暑い……」
「ああ、まったくだ。
、きつくなったら無理せず言ってくれよ」
「平気だよ。ありがとう、ガイ」
以前倒れてしまったのを心配してくれてるらしい。
優しい人だな、
は答えながら内心そう呟いた。
「それにしても、デザートローズ五つって……」
「結構骨が折れそうだな。ただでさえ見つけるのが難しいものだし、加工にも手間がかかる」
少し多めに採っておこう、と額の汗を拭いながらガイが言う。
「間違いなく手間と人手は今までの中でダントツだね。
お金持ちはやることが違う……」
げんなりとはため息をついた。
「まぁ、そうだな」
相槌を打ちつつ、ガイは苦笑を漏らす。
「ん?どうかした?」
「いや、ちょっと昔を思い出してな」
「昔?」
「ああ、ルークがガキのころはどうだったかな、と思ってさ」
「そっか、ルークもグランマニエの貴族だもんね」
「今はここの一員さ。
それに、最近はクリスマスなんて祝ってないしな」
「そうなんだ」
「旦那様も奥様も忙しいし、ルーク自身、もうそんな歳じゃないっつってな」
きっとガイや周囲の人が気を遣っても突っぱねてしまうのだろう。
その様子が想像できて、はくす、と笑みをこぼした。






しばらく歩き回り、だんだん奥のほうに入っていくと、
「……あ、」
不意に、が声を上げた。
「ガイ、見て、あそこ」
岩が抉れて凹んだ一角を指差す。
「デザートローズだ」
「キレイ……」
屈み込んで、はじっくりと眺める。
「じゃあ、採取するか」
少し間をおいて、ガイが道具を取り出す。
「ん、わかった」
二人で協力し、慎重にデザートローズを採る。
「まずは1個、と」
「まだこの辺りにあるかもしれないな。手分けして探そう」
「りょーかい」



またしばらく探し回ること十数分。
「よし、採れた!」
嬉しそうには取ったばかりのバラを抱える。
「あと一つか二つ採ってくか」
「そうだね。この調子ならすぐに見つかりそうだし」
きょろきょろと辺りを見回すと、
「んー……あ、あれそうかも」
じっと目を細めると、少し離れた場所にバラの形が見えた。
「私ちょっと採ってくるよ」
「あ、おい、
周囲に魔物がいるかもしれない、とガイが言う前に、は駆け出してしまった。
が、見たところ魔物が近寄ってきそうな気配はない。
すでにバラを採りにかかってるを見て、ガイは小さく肩を竦めた。
「っと……よし、採れた。もうなさそうかな?」
他にはなさそうかな、と辺りを見回していると、ガイがのんびり歩いてきた。
「ガイ、採れたよ」
「ああ。他にはもうなさそうだな。
そろそろ引き上げるか」
「そうだね」
最後のバラをしまい、腰を上げて砂を払う。
「よしっ……と、」
顔を上げた瞬間、視界に黒い影が映った。



「ガイ、危な――!」



叫びは、掠れて途切れる。



一瞬、意識が飛んだ



!?」
よろめきつつも、なんとか立ってみせる。
「こ…んのぉ……っ!」
懇親の一撃で何とか剣を振り、魔物を撃退した。
「大丈夫か!?」
「ん、ヘーキ」
「平気って……血が出てるじゃないか。
手当てしないと……」
包帯を取り出し、くるくると手際よく巻いていく。
ガイってホント起用なんだなぁ
ぼんやりとその様子を眺めているうちに、綺麗に結んで止血された。
「とりあえずコレで大丈夫だろう。
早く帰って誰かに診せたほうがいい」
「あ、うん……」
ガイに急かされて、二人はあわただしく船に戻った。






「……えーと?」
「何が起きてるんだ……?」
船に戻ると、他のメンバーたちもちらほら戻ってきていた。
だが、船内の様子が出掛けとは違う。
「お、ガイ、。おかえり」
「ルーク」
出迎えてくれたルークに事情を聞く。
「ああ、例の依頼のことを聞いてな。
ここでもクリスマスパーティーやろうってことになって」
「一体誰がそんなことを?」
「発案者はイリアとファラ。んで、リリスとかが賛成して……」
「チャットはなんて?」
「”たまには良いでしょう”って。ケーキで釣られたみたいだ」
「もー、チャットってば……」
はぁ、とはため息をついた。
「そんなわけだから、すぐ手伝いに借り出されると思うぜ」
そう言ってルークは自分の仕事に戻っていった。
「船長命令じゃ仕方ないな」
苦笑しながらガイは軽く辺りを見回す。
「何かすることないか聞いてくるよ」
「じゃあ私報告しとくね」
「あ、
機関室に下りていこうとすると、ガイがそれを呼び止めた。
「腕、ちゃんと誰かに診せておくんだぞ」
「うん。ありがとう、ガイ」







 次の日の夜――
依頼人に納品を済ませ、バンエルティア号では盛大なクリスマスパーティが行われていた。
ツリーも飾りも、納品のあまり物や余分に持っていたものだけだが、元の船の造りもあってか結構華やかな雰囲気になった。
料理もパニールら厨房スタッフが腕によりをかけて作ったメニューが所狭しと並んでいる。
「それじゃあ、代表としてボクから。
みなさん、おつかれさまでした。かんぱーいっ!」
『かんぱーい!!』
かちん、とグラスがぶつかり合う。
おのおの、料理を取ったり、用意したプレゼントを交換したりする。
負に覆われつつあるとは思えない、明るい空間がそこにはあった。



「パニール、次何運べばいい?」
「ありがとう。もう大丈夫よ。
あなたもパーティを楽しんでらっしゃいな」
「そうですよ、私が交代しますから」
厨房を手伝っていたは、ちょうど入ってきたリリスと入れ替わり、食堂を後にした。





「といっても料理はほとんどつまんじゃったし……」
なんだかんだで、みんな思い思いの人と過ごしている。
「海でも見てこようかな……」
動き回っていたせいで少し暑い。
外の風に当たってこようと思い、は甲板の扉を開けた。




「ふー……気持ちいい……」
冬の風は冷たいが、今はそれが心地よかった。
「……」
夜の海は何処までも深く、暗い。
遠くに、ぼんやりと世界樹の輪郭が見える。
「――こんなところにいたのか」
ぼんやりと海を眺めていると、ふいに背後から声がした。
「……ガイ?」
ホールの扉を開けて、ガイが立っている。
「外寒いだろ。どうしたんだ?」
「動き回ってたらちょっと暑くなっちゃって」
「一生懸命働いてたもんな、
扉を後ろ手に閉め、ガイは隣に並ぶ。
「そういえば、腕、診せたか?」
「あ、うん。ミントに診てもらったよ。
そんなに深くないからすぐに治してくれた」
「よかった。
女の子なんだし、痕が残ったりしたら大変だからな」
「女の子って……」
言われなれない響きがなんだかくすぐったい
「少なくとも俺はそう思ってるけどな」
ふ、と真剣な眼差しで見つめられて、ドキリとする。
「……正直、情けなかった」
「え?」
「俺の不注意で君に怪我をさせてしまって」
「気にしなくていいよ。私もちゃんと周り見てなかったし。
それに、ガイが手当てしてくれて嬉しかった」
にっこり微笑むと、ガイも釣られたように小さく笑って、
「それで、お詫びって程のもんじゃないが……」
懐から何かを取り出した。
「これ……ルチルブライト?」
グローブの中で小さく輝く宝石。見覚えがある。
「依頼人のリストの中にあっただろ?
セネルに頼んで一つ余分に取ってきてもらったんだ」
それを加工してペンダントにしたらしい。
細い銀の鎖がルチルブライトの光を受けて微かに輝く。
「受け取ってくれるか?」
「いいの?」
「ああ。急ぎで作ったから少し雑だが……」
「嬉しい!ありがとう、ガイ」
受け取ったペンダントを大切そうに握り締める。
「つけていい?」
「ああ。あ、いや……」
ガイはの手のひらからそっとペンダントをつまむ。
「俺がつけるよ。もちろん、君がよければだが」
「えっ?でもガイ……」
が相手だとあまり緊張しないんだ」
「うーん……喜んでいいのやら……
でもいいや。つけて?」
つけやすいように髪をよけると、ガイの手がすっと伸びてきた。
思った以上の距離の近さに、またドキリとする。
夜でよかった。きっと今顔真っ赤だ。
そんなことを考えていると、ガイの手が離れて、胸元にはルチルブライトが小さく輝いていた。
「よかった。上手くできたみたいだ。
よく似合ってるよ、
「あ、ありがとう」
なんだか気恥ずかしくて顔を上げられない。
「大事に、するね」
なんとかそれだけ言うと、ガイもありがとう、と言って苦笑した。
「そろそろ戻るか。だいぶ冷えてきたしな」
「うん」
ホールの扉を開けると、賑やかな声が聞こえてきた。
「あ、そうだ」
ドアを半分開けたまま、ガイが立ち止まる。



「メリークリスマス、



それは、すごく優しい笑顔で

かっこよすぎる!
(その笑顔がクリスマスプレゼント)


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 あとがき
というわけで、クリスマス・ガイverでした。
最後の灰文字は私の心の叫びです(笑
もうさっさとくっついちゃえばいいと思うよ。
この人だけ長いのは仕様ですwww
 2009 12 26  水無月