「アニス、そっちの鍋見てくれ」
「はーい」
話しながらもの手は休まずに動き続ける。
「もういい感じかな。盛り付けてくねー」
「ああ。
誰か、この皿持ってってくれ」
背後の男集に声をかけながら、スライスしたタマネギを乗せてサラダを仕上げる。
「あとは……こんなもんか」
調味料を混ぜて簡単なドレッシングも完成。
しっかりした台所が使える分、普段よりも一段上のメニューとなった。
「いただきます、と……ん、美味い。流石だな、アニス」
「盛り付けも綺麗ね。私は作るだけで精一杯だから」
「えへへー」
アニスの料理は毎度のことながら評判がいい。
隣で見ていると、下ごしらえから仕上げまで、丁寧さは大人顔負けだ。
「はあー食った食った」
元の調子に戻ってきたルークは、満足そうに腹をなでる。
「ご馳走さん、二人とも美味かったぜ」
「どうも」
は食後のお茶を啜りながら、ふとあることを思い出した。
「そういや、寝る場所決めないとな」
「?」
首を傾げる仲間達に、は部屋の奥を差す。
「見ての通り、ウチにはベッドが二つしかなくてな。
二人はベッド。後は床で雑魚寝だ」
「なっ、マジかよ?!」
「仕方ないだろう。とはいえ……」
はしばし考えた後、ルークを指差す。
「ルーク、お前は病み上がりだしな。とりあえずゆっくり休んでおけ」
『?!』
その何気ない発言に、仲間達は目を見張った。
「何だ。何かおかしなことを言ったか?」
「い、いえ。おかしくないわ。の言う通りね」
「そうだな。原因もわからないし、出来る限り体調は万全にしておいたほうがいいだろう」
「それにしても……」
「……?」
「お前の口からそんな言葉が出るなんてな……」
ルークの言葉で仲間達の視線の意味に気づいたは、照れ隠しのように視線をそらせた。
「そりゃあ普段は健康体だとしても、目の前で倒れたばかりの人間を雑魚寝させておくほど非道じゃない。
……ったく。俺を何だと思ってるんだ」
「それで、あと一人はどうやって決めるんですか?」
ずず、とお茶を啜ってジェイドが訊ねる。
「そうだな……」
「それならイオン様にベッドをつかってもらってはどうかしら?
砂漠の中を歩いてお疲れでしょうし」
「ん、それもそうだな……」
「いえ、僕なら大丈夫です。
それに、砂漠を歩いてきているのは皆さんも同じですし……
やはり、家主であるが使ってください」
「……仕方ないな」
埒が明かない、と呟いて、は引き出しの中から何か取り出した。
「これで決めるか」
それをコロン、とテーブルの中央に転がす。
「これって……」
古びてやや色の剥げた立方体のソレは――二つのダイスだった。
「ご覧の通りただのダイスだ」
「これで決めるって……」
「ポピュラーな奴で……出た目の合計が一番小さかった奴がベッドを使うってのでどうだ?」
「私は構いませんよ」
「そうだな。話してても埒が明かないし
じゃあまずは俺から……」
そう言ってガイは二つのダイスを手に取ると、テーブルの上に転がした。
コロン、と音を立ててダイスが転がる。
「あ、」
「うわ……」
「……はあ」
出た目は5と6だった。
皆して何とも形容しがたい表情になる。
「いきなり……でかいのがきたな」
「いやー、さすが使用人ですね。自ら進んで床をとるとは」
「……嫌味だな」
ガイははあ、と大きくため息をついた。
「じゃ、じゃあ次は私が振るわね」
ティアがダイスを手にとって転がす。
ダイスは小さく転がって、5と4の目を出した。
「9か。まあこの時点でガイは床決定だな」
「わかってるって」
「はいはーい。じゃあ次アニスちゃん行きまーす!」
えいっ、と掛け声つきでアニスはダイスを転がす。
「お」
ダイスはコロコロと転がって、2と4の目を出した。
「6か。とりあえず暫定1位だな」
「やっぱり勝つのは美少女だよねえ「おや」
コロン、とダイスの転がる音に皆が振り向く。
「ん?」
ダイスを振ったのはジェイドだった。
テーブルの上を転がり、静かに止まる。
「……5、だな」
出た目の合計をガイが呟くと、アニスの表情がぴきり、と固まった。
「アニス……短い天下だったな」
「大佐はぁ、か弱いアニスちゃんを床に寝かせて自分だけベッドで寝たりしませんよね〜」
「いえ、私も年のせいかベッドで眠らないと体の節々が痛みましてー」
「相変わらずだな……このおっさんは……」
涼しい顔で1位をかっさらっていくあたりは流石というべきか。
「では、次は私が振らせていただきますわ」
ナタリアがダイスをテーブルの上に転がす。
「2と6……8ですわね」
「また微妙な数字だが……今のところ大佐が1位だな」
「まだ振ってないのはとイオン様ね」
「僕は最後で構いませんよ。、お先にどうぞ」
「ん、わかった」
はテーブルの上のダイスを無造作につかむ。
それを拳の中で何度か振ると、手のひらから滑らせるように落とした。
コトン、とあまり転がることなく、ダイスは止まる。
「まあ」
「おっ」
「ふむ」
出た目は1と2だった。
「これでが1位ですわね」
「2は出なかったか……まあ、いいか」
「なんだかんだ言ってに決まりか」
「さて、勝負は最後までわからないものだけどな」
そう言いつつも、の表情は余裕に満ちている。
「じゃあ、僕も振りますね」
えいっと両手で包み込んだダイスをテーブルの上に放す。
コロコロと小さく転がって、二つのダイスはピタリととまった。
「……ん?」
「おや」
「あー……」
場の空気が微妙なものになる。
出た目は1と1――つまり、合計は2だった。
「……」
は腕を組んだまま絶句していた。
「あ、あの……」
「……イオンの勝ちだな」
「えっと……僕なら大丈夫です。みなさんが……」
「いいんですよ、イオン様。
勝者なんですから、堂々と使っちゃってください」
「そういうことです」
「でも、が……」
「……いや、いい。気にするな。
アニスの言うとおり、堂々と使ってくれ」
はトーンの低い声でそういうと、テーブルの上のダイスを片付けた。
「ま、まあとりあえず、そろそろ寝る準備しとくか」
「そうですね。珍しいものも見られましたし」
「でもあんな風になるのね……」
「絶対的な勝者というものは存在しないのですわね。勉強になりましたわ」
この日以降、イオンが勝負事に巻き込まれることは無かったという
――――――――――――――――――――――――
あとがき
ヒロインを崩したかった。それだけです。
アビスにダイスの概念とかあるのかなーとは思ったんですが、カジノもあるくらいだしいいだろうvと思って。
イオン様には導師パワーみたいなのがあると信じてうたがいません。キリッ