「なあ、」
カイツールの国境を後にしてすぐ、ガイがふいに問いかけた
「はどうしてバチカルに?」
「そうだな……野暮用、っていったら信じるか?」
「野暮用、ねぇ……」
曖昧な返事にガイの表情も曇る
「……俺は、キムラスカの出身なんだ」
「えっ?」
「小さい頃に両親を亡くして、ケセドニアに流れたんだ
そこで養母……師匠と出会って、育ててもらった」
「そうだったのか……」
「今回は十数年ぶりの帰郷になるんだ。
父の古い友人がいると聞いているから、その人を訪ねるつもりだ」
「そうか……」
「俺は……逃げていたのかもしれない。
自分の居場所からも……両親の死からも……」
の表情に影が落ちる
「その現実が近づいてきて……焦りを感じてしまったんだ
何もかも見えなくなりそうで、怖くなった」
訥々とは語る
先ほどガイに剣を向けてしまったことは自身にとってもショックだった
「ああ、俺も驚いた。さっきのは、本当に別人のようだったからな」
「言い訳がましいが……無意識だった。
自分の腕だと気づくまで何もわからなかった」
ふる、と震える自分の腕を抱く
「今もまだ、怖いのか?」
「もう慣れた。大丈夫だ
ただ……」
言いかけて、は口を紡ぐ
ただ……バチカルで目的の人物にあったとき、同じように冷静でいられるのか
そして、自分の思いを遂げたとき、自分は自分のままだろうか
「ただ……何なんだ?」
「いや、何でもない」
ガイには告げられない
告げるわけにはいかない。自分の真の目的を……
「……ガイは、バチカルに戻ったらルークの家にいるんだよな?」
「ああ。帰ったら仕事も溜まってるだろうしな」
「大変だな。使用人は」
「そうでもないさ。ルークも根はいい奴だからな。
これはこれで楽しんでる」
「なるほど」
くすりとは笑みを零した
「……なぁ、ガイ」
の灰銀の瞳がガイを映す
「また……会えるか?」
「会えると思うぜ。
公爵家に来ればだいたいいつでもいるからさ」
「そうか……そうだよな」
「二、三日はみんなも滞在するだろうし……
それに、多分も招待されると思うぜ」
「それは……謹んで辞退させていただくよ
その代わり、暇があったらガイの所に行っても良いか?」
「いいぜ。とはゆっくり話したいしな。いつでも来てくれよ」
「……ありがとう」
屈託のない笑顔につられて微笑む
すると、ガイが思い出したようにぽん、と手を叩いた
「そうそう、前から言おうと思ってたんだが……」
「?」
「は、そう言う自然な表情してる方がいいぜ」
「え?」
「仕事柄表情が硬くなるのはわかるが、出来るだけ自然な表情していた方がいいぜ
のそう言う表情は見ていて落ち着く」
「そうなのか……?」
「きっと無意識なんだな。長いことそうやって仕事をしてきたから」
「……よくわからないな」
「だろうな。
けど、俺たちがこうやって知り合ったのも何かの縁だ。
俺たちの前では自然なままでいろよ
疲れたらさっきみたいに疲れたっていっていいし、無理に笑ったりしなくて良い」
「そんなに無理してたか?」
「多分な。俺はそう見えた
だからさっきのカイツールや……今も、感情が表に出ているのがよくわかる」
「そうか……」
はしばし何か考え込むように眉間に皺を寄せ、
「……ルーク達の前でも同じように出来るかわからないけど、」
言葉を選ぶようにゆっくりと答えを返す
「やってみるよ。
ガイの前でなら出来てるんだしな」
そう、こんな風に同年代の人と話したことはない
自分から出自を語った事なんて無い
短い間に、気がつかないうちに、ガイはこんなにも深く自分に入り込んできていた
けれどそれは嫌なものではなく、どこか暖かみのある感情
「ありがとう、ガイ。
だいぶ気が楽になった」
「それなら良かった。
――さてと、少し急ぐか?」
「ああ。ルークが文句を言う前にな」
に、と微笑み顔を見合わせ、二人は軽やかに地を蹴り出す
遠くには手を振る影
触れた心は柔らかくて心地よかった
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あとがき
注・ガイ様相手の男装ヒロイン小説です。(汗
思ったより甘くなってしまった……OTL
ほのぼの友情系目指したんですけどねー……
生暖かい目で見てやってください。はい。
ヒロインサイドは普通の夢小説ですからねぇ。。。
2008 11 10 水無月