ガサゴソと何かの動くような音に、ガイはふと目を覚ます
謎の少女とともにとばされたルークを追ってマルクトに向かい、数日が経った
何とか合流することはできたが、一緒について来たのは厄介な状況
そして――ある青年との出会い
「――ん?ああ、すまない。起こしてしまったな」
静寂の中に凛と通る声
ルークたちと行動をともにしていた青年――傭兵のは、不思議な雰囲気を持っていた
漆黒の髪に鏡のような灰銀の瞳はどこか中性的な印象を与えている
全身を包む鈍色のコートは周囲を拒んでいるようだ
「いや、良いんだ。俺も寝付けないところだったからな」
「そう……」
は一度ちらりとこちらを見ると、コートの上からベルトを締めて、双剣の鞘を腰に下げた
「どこか行くのか?」
「少し剣を振ろうかと思ってな」
寝付けないときはストレッチのような軽い運動が一般的だが、の場合は剣の素振りがその代わりらしい
根本的に鍛え方が違うな、
には感心させられることばかりだ
ガイは内心の驚きを何とか表に出ないよう押さえ、「そうか」と頷く
「みんな疲れているだろうから起こしたくなかったんだが……」
よりにもよって同室のガイに気づかれてしまった、とは苦笑した
「朝までには戻る。ガイは寝ててくれ」
「いや……俺も付き合うぜ」
ガイは自分の荷物から剣を取り出す
「今から横になっても寝付けないだろうしな。
それに、とは一度剣を交えてみたかったんだ」
同じ剣を使う身として、
そして昨夜と真面目に言葉を交わして――
その想いに、その在り方に興味を抱いた
「――俺も、」
が答える
「俺も、ガイとは一度手合わせしたいと思っていた」
抑揚のない声。でも、嘘や冗談には感じられない
「「行くか」」
それぞれの得物を携え、二人は夜の宿を後にした
「はっ」
「っ!」
刃のぶつかり合う音が夜の林を揺らす
生き物は眠り、静寂の支配する林はどこか神秘的な感じさえする
宿を抜け出した二人は、近くの林で剣を交えていた
キィン、と刃がぶつかるたびに木の枝が揺れる。
初めは軽く打ち合うだけだったが、互いに抱いていた相手への興味が無意識のうちに二人を本気にさせていった
「っは!」
「くっ」
絶え間なく繰り出される二つの剣に、ガイははじめ圧倒された
慣れてきたのか、今は鞘を使って防いでいる
の双剣は、リーチこそ自分の剣より短いが、“攻め込む”という点に置いて非常に優れていた
攻撃のモーションは多種多様。隙のない剣裁きは、見るのと実際に受けるのでは大違いだ
こちらが切り返しても怯むことなく冷静に対応し、僅かな隙も逃さず攻め込んでくる
それは、まさしく“狼”だった
灼熱の砂漠に悠然とたたずむ銀狼
ガイは改めて、“砂漠の銀狼”という二つ名が指し示す強さを知った
「――そこだ!」
長く続いた剣戟の果てに、ガイの剣がの右手を打ち、蒼色の剣が手を離れる
「勝負アリ、って……っ?!」
ガイが一息ついた瞬間をは見逃さない。すかさずもう片方の剣を持ち直し、低い体勢から切り上げた
「はあっ!」
そのまま勢いに乗せて真横になぎ払う
キーン、と甲高い音が響き、ガイの後方に剣が落ちた
「――勝負アリ、だな」
緋色の剣を突きつけ、はにやりと笑う
「まいったよ」
ガイは両肩をすくめ、降参のポーズをした
それを見て、は剣を鞘にしまう
「さすがだ。強いな」
後ろに落ちた剣を広い、に向き直る
「そんなことはない」
同じようにも弾かれた剣を鞘に戻していた
「強くなんてない。俺は……まだ未熟だ」
謙遜していると言うより、自分に言い聞かせるような口調
昨夜聞いた話が、ふと頭の中で蘇ってきた
『人を殺めてきたことも、重ねた罪も全てひっくるめた自分という存在を、他の人間に奪われたくない。――だから、俺は戦うんだ』
もしかしては、自分が思っているよりずっと繊細で、脆いところがあるのかもしれない
剣を交えて、その強さを目の当たりにして――けれどその口から零れる言葉はどこか儚げな雰囲気を纏っている。
「――そろそろ戻るか」
身なりを整えて、が踵を返す
その内面をもっと知りたいと――
無意識のうちに行動していた
「――ガイ?」
肩を掴む手を見て、が不思議そうに訊ねる
「どうしたんだ?」
「いや……もう少し、休んでいかないか?」
は一瞬きょとんとした表情でこちらを見つめ、
「そうだな。もう少しゆっくりしていこう」
そう言って適当なところに腰を下ろした
「ガイも座れよ
月が、綺麗に見える」
「ああ」
剣を傍らに置き、の隣に腰を下ろす
空を見上げると、雲一つ無い空に上弦の月がぽっかりと浮かんでいた
月は遠く、だが優しい光で二人を照らす
静かな林の中で、ぽつぽつと短く言葉を交わすだけの時間が過ぎていった――
その後うっかり眠ってしまった二人は、慌てて戻るも、ジェイドに爽やかな笑顔で説教を喰らってしまった
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あとがき
閑話って事で本編の間の短編です。
別名・本編に入れたいけど何か長さが半端になってしまったシリーズです。
基本的にはガイ様との絡みが多くなります。
まぁ、初めは友情系ですが。今回はガイ様視点です。
序盤で宿屋に泊まるとルークが瞬刃剣覚えるイベントありますよねー
そんな感じで書きました
2008 11 10 水無月