「――、いるか」
それはジェネックス2日目、夜のことだった
「はーい」
コンコン、とドアをノックする音に、カードの整理をしていたは腰を上げた
「どちら様――」
ドアを開けながら訊ねた言葉は、自然に消える
「久しぶりだな、」
「亮……先、パイ……」
ドアの前に立っていた人物に、は硬直してしまう
それは――プロとなり、ジェネックスに参加していた、ヘルカイザーこと丸藤亮だった
「入ってもかまわないか」
「あ、はい……」
彼が在学していた頃はよく可愛がって貰っていた
今使っている部屋も、以前は亮が使っていた部屋である
ドア越しで、自分がカードに集中していたとはいえ、世話になった先輩の声に気づかないとは。
はどこか気まずい心境に立たされた
「あの、どうしたんですか?急に……」
躊躇いがちに訊ねると、言葉だけが返ってきた
「……用意された部屋が合わなくてな。少し休ませて貰うぞ」
「それは……いいですけど」
突然、ということもあってか、は戸惑いを隠しきれないでいた
鋭い瞳、全身の黒い服装、抑揚のない声
の知っている亮とはあまりに違いすぎた
「……デッキを調整していたのか」
「はい。だいぶ強い人が残ってきたみたいなので、もう一度組み直そうと思って」
「……そうか」
亮はカードの広げられた樹里のデスクを一瞥し、ブルー寮の高級なベッドに腰掛ける
「あの……先輩――っ!」
訊ねかけた言葉は途中でかき消える
「亮、先輩?!」
言葉を遮ったのは、亮の腕だった
強く抱き寄せられ、頭が真っ白になる
「ど、どうしたんですか?!」
広い胸に押しつけられ、体が火照り、息ができなくなる
「……」
それでいて、耳元で囁くような声は少しだけ優しい
「俺は勝利を求め、勝利をリスペクトする――ヘルカイザーとなった
それでも、お前は俺を……」
一度、言葉が途切れる
「お前は、俺を一人の先輩として……
……丸藤亮として、見ていてくれるか、」
言葉が消え、代わりにぐ、と腕に力がこめられた
力強く押しつけられた胸から、かすかに鼓動を感じる
「私は……」
何回とデュエルを重ね、言葉を交わしてきた
気がつけば、自分の中で彼の存在が大きくなっていた
「……卒業したら、先輩の傍で働きたいです
ヘルカイザーでも、プロでもマイナーでもない、丸藤亮先輩の傍で」
呟くように返した言葉は、わずかに切望を含んでいた